« 大銀座落語祭4 ほろりの会2&喬太郎と上方落語2 | トップページ | 空想組曲「僕らの声の届かない場所」キャンバスに封じ込められた物語の豊潤さ »

「なんせんす」あんぽんたん組合の時代の描き方

7月最後の日、赤坂レッドシアターであんぽんたん組合の「なんせんす」を観てきました。

ちょっと毛色の変わった70年初頭を舞台にしたお芝居、描き方も秀逸で、いろんなことを考えさせるふくらみをたっぷり持ったお芝居でありました。

(ここからネタばれがあります。十分にご留意の上お読みくださいませ)

舞台は北海道、大阪で万国博覧会が開かれ、岡本太郎デザインの太陽の塔の目玉に男が篭城したころの話・・・。歳がばれますが、私から見るとワンジェネレーション上の世代のお話になります。作・演出は方南ぐみの樫田正剛

一見、平和な公務員の寮、そこに一人の男が入寮してきます。実は彼は公安の捜査官・・・。彼の潜入捜査から様々な人間模様が浮かび上がってきます。学生運動の過去を持っていたり、今も思想を露骨に出すもの、さらに過激な思想で仲間をオルグしていくもの、そして逆に仲間に入れられて戸惑うもの・・・。さらには思想に興味を示さないもの。そこに管理人やその息子、さらには姉を学生運動の末に失ったものや地元の住民も加わって・・・。

様々な温度差の思想信条を持つ人々の姿が公安の登場から次第に浮かび上がってきます。

この国に高度成長がもたらした豊かさの光と以前の貧しさの影がアラベスクのように残っていた時代、その中で描く理想の温度差、現実と理想のギャップの大きさ・・・。自らの望むものが満たされない当惑、そしてその気持ちの行く先・・・。前半のやや淡々とした物語のトーンがその時代の持つ香りなら、後半の舞台が持つ熱はその時代をすごした人々がそれぞれに秘めた想いの表れ。終盤の、公安側の人々の心情の発露や、思想を持つ人々の「熱」が革命という麻薬のような思想の箍から開放されていく姿が圧巻で、でもこれもまたひとつの時代の細密な描写のようにも思えます。

そして、この作品の秀逸さは時代の空気を表現する力だけではなく、さらにその向こう側にもあって・・・。

それぞれの世代や時代で形は違っても、トレンドのなかで人が心に持つ「熱」の普遍性、そして個々の熱が、様々な色の熱を持つ人々との関係のなかで円熟していく姿・・・。一つ間違えば教条的な色に染まりそうな世界なのですが、登場人物の個性がしっかりと演じられていくので、結果的にコアの部分がごまかしを持たずに伝わってくるのです。完成品として観客に押し付けられるのではなく、素材として観客に渡される道標のようなものがこの舞台にはあるのです。

役者の出来もすごくよかった・・・。近江谷太朗の表現の強烈さ、大森美紀子のフォーカスがビチっと決まった演技、朝倉伸二の存在感・・・。それらがしっかりと柱になっているから、他の役者の個性もみごとに浮かび上がってくる。平賀正臣、西ノ園達大、朝倉真二、菊池均也・・・いずれの芝居も脂が乗り切っている感じ。佐藤仁志、福沢重文にも舞台を支える色がありました。野沢剣人も高まる心の行き場のなさをしっかり抱いた演技に説得力がありました。

女優陣にも力がありました。野口かおるは双数姉妹の舞台などでの秀逸な演技を何度も観た事があるのですが、今回はさらにしたたかになった印象をうけました。昂ぶらないナチュラルさと女性としての生々しさを表現する底力にあいまいさのヴェールがふわっとかかっているようで、結果として彼女が演じるキャラクターに見事な立体感がうまれていました。高野志穂の凜とした雰囲気と力強さはとても魅力的、エッジがしっかりと見える演技なのですが、同時に近江谷とのシーンをヴィヴィドにみせるしなやかさも持ち合わせていてキャラクターの幅を広げていました。田実陽子には奥行きがありました。特に後半に見せるコアの強さには一瞬の葛藤もあり見応えがありました。斎藤ナツ子は空間ゼリーでの秀逸な演技に何度も瞠目させられた女優さんですが、今回は、これまでの演技とは違った表現の強さがありました。しかもその一方で細かい部分の表現にもしたたかさがあって・・・。終盤に田実陽子に従うようにシュプレキコールのようなものを叫ぶシーンがあって、田実が揺れる心を支えるような表現にも見ごたえがあったのですが、重ねた斎藤のシュプレキコールに含まれた微かな「とまどい」も実に秀逸で・・・。そこに生まれた田実と斎藤の台詞の色の差に、物語が描くものを時代から個人に持っていくような力がありました。

帰り道、いろんなことを考えました。芝居に気づかされた普遍性に、週刊誌の中吊り広告の今を重ねると、はっとすることがいくつもあって・・。

こういう形で時代を俯瞰するような力をもったお芝居、久しぶりに見たような気がします。

R-Club

|

« 大銀座落語祭4 ほろりの会2&喬太郎と上方落語2 | トップページ | 空想組曲「僕らの声の届かない場所」キャンバスに封じ込められた物語の豊潤さ »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「なんせんす」あんぽんたん組合の時代の描き方:

« 大銀座落語祭4 ほろりの会2&喬太郎と上方落語2 | トップページ | 空想組曲「僕らの声の届かない場所」キャンバスに封じ込められた物語の豊潤さ »