王子落語会納涼寄席 都んぼ師匠の切れで暑気払い
8月15日、王子小劇場での落語会を聞いてまいりました。この劇場の番組構成ってやっぱりすごいとおもうのですよ。佐藤佐吉演劇祭の間隙をついたこの企画、こういう発想の柔らかさをもつ劇場というのはほんとに魅力的です。
先日、「空想組曲」の世界にどっぷりと浸らせていただいた同じ場所が、キャパ100弱のすてきな寄席空間に変わっていて・・・。
早めに劇場についたこともあって、前から2列目、センターブロックの席をゲット。口座から5メートルぐらい・・??しかも高座に高さを感じない場所。
夏の宵、極上な時間を過ごすことができました。
・開口一番 瀧川鯉八 「犬の目」
前座さんということで、語り口は基本に忠実な感じ・・・。でも、ここそこにぐっと前に出るような表現があって、客を離さない部分がありました。
目をはめるときのくすぐりも、繰り返しの中に微妙に力加減がかわっていて、一本調子になっていない。
実直さとノリが良い具合に混ざり合った噺だったと思います。
・桂 まん我 「胴切り」
上方風のフレンドリーなつかみで、場を和ませます。枕から噺に入るとぐっと語り口に脂がのってくる感じなのですが、その中にある穏やかさというか明るさのようなものがいいんですよ。いたって気楽な男というところに説得力がある・・・。主人公の気楽さがしっかりと演じられているので、胴を切られても、ぼーっとしているところに無理がない。それで噺がストレスなく進んでいきます。一つ間違えば陰惨な話になる辻斬りを、登場人物のだれもが受け入れてしまう部分に絶妙な自然さがあるのです。
前提ができてしまえば、あとはまん我師匠の手のうち・・・。上方落語の明るさが心地よく笑いを誘って・・。押していくようなノリがあるから、設定の突飛さもまったく感じられない。
充実の高座を拝見させていただきました。
・桂 都んぼ 「餅屋問答」
江戸落語だと「蒟蒻問答」ですね。しばらく前に小三治師匠のものを見たことがあるのですが、その時には問答に対応する時の緊張感や問答の中味がぐっと強調されておちの笑いを誘っていく感じだったような記憶があります。まあ、そのメリハリはすごかったですけれどね・・・。それに対して、都んぼ師匠のものは、登場人物個々の人物描写で噺全体のテンションを上げていく感じ・・・。餅屋のおやじにしても寺を任された男にしても、寺男にしても、どこかに伝法な感じがあって生き生きとしている。登場人物にピントがびしっと当たっているというかその人物の雰囲気が観客にビジュアルで伝わってくる。
一番感心したのは、諸国行脚の僧、沙弥卓然の表現・・・。僧の持つ一途さ、若さ、問答に負けた時の狼狽などが繊細な表現からしっかりと観客に伝わってくる・・・。その表現は落語というよりは演劇に近いかも・・・。その表現があるから、問答のおかしさというより、餅屋のおっさんの勘違いした怒りのおかしさが生きるのです。
都んぼ師匠も主任ということで、自分の落語を誰気兼ねすることなく、気持ちよく演じている感じ・・・グルーブ感を持った噺の進み方に場内は一気に虜にされて・・・。
聴いている側にも充実感あふれる高座でありました。
中入り
・瀧川 鯉昇 「佃祭」
リサイクル関連の枕から、地道な芸風が伝わってきます。当たりがとても柔らかくてすっと観客に染み込んでいくよう・・・。笑いもゆったりとしていて、でも心地よい・・。多少ばれ話も入りましたが、厭味がなくふっと笑える・・・。江戸落語の粋がさりげなく詰まっている感じ・・・
噺にはいってからも、物語をゆっくりと積み上げていく感じ・・・。伏線にあたる部分が一つずつ積み重なって物語がすこしずつ重さを持ってくる。佃島からの仕舞舟に乗り遅れたシーンから墨絵のように淡々と語られ、その後の物語も静かに少しずつ膨らんでいきます。乗り遅れた舟がひっくりかえって誰も助からなかったという話も、大仰にならず淡々とした色のままに語られていく。そこに運命の不思議さや縁のつながりというか物語に潜んでいた因果がすかし絵のように浮かび上がってくる・・・。「情けは人のためならず」なのです。
後半、仕舞舟に乗って命を落としたと勘違いした主人公の家の、弔いの準備風景には滑稽さがいっぱい・・・。前半のトーンとの対象でその滑稽さが一層浮き立ちます。
噺にゆっくり包まれてひとしきり笑ってすっと落とされる・・・。聴く側に負担がなく噺の良さだけがのこる・・・。江戸落語の良い部分をしっかり感じることができました。
・桂 都んぼ 「相撲場風景」
枕で、さらっと短くということでこのネタを選んだとの説明がありましたが、どうしてどうして・・・、熱がこもった高座となりました。まあ、ゆうてみればオムニバス形式の話を重ねていくうちに相撲場全体の熱気が伝わってくるような趣向の噺なのですが、都んぼ師匠がすると、個々の人物描写のエッジがしっかりと描かれていて相撲場の雰囲気がくっきりと見えるよな気がします。
観客の概念を使うだけでなく、高座からのリアリティでそれぞれのシーンの解像度を上げている感じ・・。握り飯を振り回すときなど、本当に勢いというかライブ感があって、握り飯がチャンと見えるし、それが無くなった時のこっけいさが雑音なく伝わってくる。
一方で、我慢できなくなった男が酒瓶に排泄するシーンになると、すっと解像度を落として・・・。でも、酔っ払いが目が覚めたあとの表現にリアリティが戻ってしまうのですけれどね・・・。
定番のネタなのですけれど、聞いていてそこに相撲場があるように思えた瞬間に、そこに描かれる人間描写がぐっと浮き立ってくる・・・。で、知った噺がものすごく新鮮に思えてくるのです。
これだけの高座をみせていただけると、蒸し暑い中、足を運んだ甲斐があるというもの。
終演後、都んぼ師匠ともお話をさせていただけて、満ち足りた夏休みの夕べとなりました。
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