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柿喰う客「真説・多い日も安心」熱くなめらかにすっぽりと

ちょっと遅くなってしまいましたが、8月23日ソワレにて柿喰う客「真説・多い日も安心」を見ました。

お昼のアロッタファジャイナが本当にたっぷりで、満腹になっていたはずなのに、こちらはこちらでなんというか別腹というか・・・。

昼とあわせて80人弱の役者の演技を見せていただく。これはもう酒池肉林というか、観客としてもここまでの贅沢はいかがなものか状態。でも、それでも食べ飽きないくらい魅力を持った舞台に、我を忘れて見入ってしまいました。

(ここからはネタバレがあります。充分にご留意の上、読み進んでいただきますようお願いいたします。)

冒頭、物語の枠組みを作るシーンから・・・。舞台上方から、七味まゆ味のなにかを超越したような語りに全体が動き始めます。

物語はAV業界に君臨する女王の栄枯盛衰の物語・・・。自らをすり減らすようにして成り上がり、他を蹴落とし、王国を築き上げた女優の物語です。

とにかく、テンポがよいのです。役者一人ずつが、しっかりとしたキャラクターをもっていて、それらが定められた位置にすっぽりとはまっていく感じ。他のキャラクターとバッティングすることなく、ひとりずつの役者がしっかりとしたテンションを持って演技をしている上に、それぞれが演じる個性が他の個性を打ち消さないでどんどん物語にはめ込まれていくから、出演者の多さの分だけ舞台のパワーにつながっていく。しかも、物語の枠がシンプルだから役者のテイストを楽しむことと並行してちゃんとストーリーが観る側に入ってくる。

でも、物語に単調さはありません。まず、物語にきっちりと下味がついている・・・。中国の歴史を借景にしていると同時に、現代ビジネスのストラテジーのフレーバーもうまく盛り込まれています。ちょっと誇張をされているけれど、市場の寡占を狙う企業としては至極まっとうな戦略が物語に含まれていたり・・・。またカリスマ性満タンの女王の行動には、ワンマン社長が傲慢に会社を引っ張っていく姿を彷彿とさせるエピソードが、ある種のリアリティを持って差し入れられていたり・・・・。

まあ、AV業界のお話ですから、それなりに下世話な表現もたくさんあったりはします。けれど、芝居の勢いがいやらしさや生臭さが吹き飛ばして、下世話なりの味わいやおかしさだけが観客に供されていくのです。AV役の役名が全部生理用品のブランドだったりするのですが、それがちょっと男が立ち入れないような世界感を醸し出していたり、生理を止めるために妊娠をするという発想だって考えてみればえぐいのですが、物語の中では加熱していく中でのさもありなんと思わせるような説得力に変わっていたり・・・。

絶妙な息継ぎをしながらも、一気に走りぬけるようなものがたり・・・。やがて「サライ」が歌われて、AV業界全体に統一感が生まれて・・・。でもそこまで広げた物語が、冒頭の枠組みを作るシーンのリプライズに飲み込まれていく・・・。ドラマが積み重ねで舞台全体にまで広がった高揚感や熱が、たった一つのシーンにものの見事に吸い込まれていくのです。

役者のこと、なんといっても深谷由梨香の体当たりの演技にまずやられました。舞台をぐいぐいと引っぱっていく力もさることながら、清濁合わせのむようなキャラクターにぶれがないのです。観客が彼女を軸にドラマを観ていくことへの安心感・・・・。他の役者たちの演技を受けきる力量にぐいぐいと惹かれていく。七味まゆ味もよかったですね。特に最後のシーンの語りっぷり・・・。時代を俯瞰したような視線で、ゆっくりと舞台全体を取り込んでいくような大きさがあって、一方でその大きさにぼけないだけのしなやかなテンションがある。物語の中盤に彼女の過去が吐露されるセリフがありますが、それにしてもゆっくりとした一つのセリフで彼女の世界観を舞台が一気に染めてしまう・・。彼女の演技の切れのよさと演技の懐の深さを感じた事でした。佐藤みゆきも前回の「俺を縛れ」に続いて大好演でした。演技の目鼻立ちのくっきりしたところが、演じるキャラクターのしたたかさを際立たせていました。玉置玲央も演技のキレをそのままに、舞台を支える力に一層の磨きがかかった感じ。演技も前回と比較して骨太になった印象があります。

他の役者たちにもはずれがない・・・。前述のとおりその場に染まるテンションのコントロールが見事になされていて、なおかつ一人ずつの演じる世界がちゃんとある・・・。まるで魔法を見ているみたいにすら思えます。

その役者たちを、私自身のメモも兼ねさせていただいて・・・、

村上誠基、石橋宙男、村上俊哉、迫律聖、松本隆志、永島敬三、斉藤マッチュ、野上真友美、高木エルム、中林舞、矢鋪あい、八木奈々花、浅利ねこ、舞香、伊佐美由紀、色城絶、佐野功、須貝英、伊藤淳二、大石憲、高橋戦車、丸山紘毅、今永大樹、小川貴大、野田裕貴、半澤敦史、花戸祐介、出来本泰史、石黒淳士、武藤心平、加藤諒、佐野木雄太、浅見臣樹、川村紗也

七味まゆ味の最後の語りからにじみ出る達観した艶のようなものに押されて、舞台をはけていく役者たちの流れを見ながら・・・、ふっと自分の立っている足元に揺らぎを感じて・・・。それは、自分の過ごしている時間のはかなさが、冷んやりした風のように吹き込んできて・・・。

終幕の暗のひととき、作・演出の中屋敷法仁が据えた物語の視座の秀逸さに息をのんだことでした。

柿喰う客としての本公演は一年お休みだそうですが、企画公演はいくつかあるみたい・・・。なにか麻薬のような成分が含まれていて、ついつい惹かれてしまうこの世界、次もとても楽しみです。

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