楽しい!「アリス」じゅんじゅんScience
7月13日 吉祥寺シアターで、じゅんじゅんScience「アリス」を観ました。1時間のパフォーマンスの楽しいこと。ダンスを見ているという感覚をはるかに超えた世界が現出して時間を忘れて見入ってしまいました。
(ここからパフォーマンスの内容が含まれます。ご留意の上お読みください。)
ヴィヴィドなシーンから始まります。たかぎまゆが舞台に現れると、それだけで広い吉祥寺シアターにぱっと花が咲いたよう・・・。彼女の特徴であるメリハリある身体の動きが観客を一気に舞台に引き寄せます。フレンチの小粋な音楽と一瞬にして溶け合うと頭からつま先までの動作が舞台装置のほとんどない空間に色を散らしていきます。動が観客を揺さぶり一瞬の静止が彼女のキャラクターを観客に印象付けていきます。
伊藤キムのウサギにもちょっとびっくり。懐中時計をしてスーツを着てあわてているウサギではなく、野生のやくざっぽくて臆病なウサギ・・・、ちょっと強面で威嚇をして見せるけれどアリスはお構いなしに追いかける・・・。たかぎまゆから溢れてくる少女の好奇心に観客はもうわくわくです。
舞台に座っていたじゅんじゅんも登場・・・。派手さはないのですが、着実な動きが観客をすっと落ち着かせます。
さらに、森川弘和が登場して、4つ巴の追いかけっこが始まるのですが、これがすごく創意に溢れていて目が離せないのです。ルーティンを細かく織り込んだり、ユニゾンを少し崩したような豊かな表現を伴った動き・・・。観客がすてきに期待を裏切られる一瞬の仕草、ルーズなユニゾンのような動きの上に、個々の表情が残像を描いて暖色の舞台を作り上げていくと、そこからさらに複雑な振付へと発展して、観客はわくわくするような高揚感のなかで舞台に巻き込まれていきます。
彼らの鍛えられた動きにはノイズがなくくすみがない・・・。ひとつひとつのシーンがすごくクリアにやってきて、彼らの身体が作り出す小さな角度や鋭さや動きの強弱がそのまま観客を魅了していきます。時に俊敏で時にやわらかく、しかもゆとりを持った動きにはウィットのようなものがあって。精緻な動きから湧き出してくるようなコミカルさに客席から笑いが溢れて・・・。しかし、時にはなにげにクール、たとえば鏡を想起させるようなシーンが持つしなやかなテンションが観客の心をさらっと引き締めたり・・・。とにかく観客を休ませない・・・。
さらに映像が合体すると、表現の幅がますます広がっていきます。椅子の使い方もすごくおもしろい。映像を絡ませたシーンの中にアリスの天真爛漫さがくっきりと浮かび上がって・・・、さらに小さな椅子と普通サイズの赤い椅子を使ったパフォーマンスでは、まる壁の節穴からスモールワールドを眺めるようなどきどきがあって・・・。また、映像と同化したダンスの精緻な動きには一部のずれもなく、映像と現実が虚実の綾織りのようになって、観ているほうが無心になって見とれてしまう・・・。
そして、なによりも最後のシーン、まるで夏休みの子供達、一列になって自分達だけの路地を抜け、柵をまたぎ、時にはすばやく、ときにはゆっくりと、自分達の遊び場を駆け巡るように更新していくのです。ダンサーたちの動きに入道雲を白く照らすような夏の日差しを感じる。心地よい風や冒険心を思い出す。いつまでも続いているような時間の感覚が広がる・・・。そう、終わらないでほしいと思うような時間がそこにあるのです。
楽しい!!。観ていてなにかが解き放たれるような・・・。
モダンダンスよりさらに緻密なシーンの表現を作り上げるじゅんじゅん流の振り付けの豊かさ、一瞬にして全身にキャラクターを宿らせるたかぎまゆの深い懐を持った表現力、俊敏でありながら質量を持った動きで空間をひろげる伊藤キムの力感、ダイナミックな動きと美しいバランス力に踊ることの根源的な迫力を感じさせる森川弘和・・・。彼らのしたたかで瞠目するような才能は誇示されるのではなく、浸潤するように彼らが織り成す世界へと観客を包み込んでいくのです。
べたな言い方ですが、立ち去りがたいような想いでアンコールの拍手を続けたカーテンコールでありました。このユニットのパフォーマンス、是非また観たい。きっと駅に向かう観客の共通した気持ちだったと思います。
R-Club
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント