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大銀座落語祭3 柳家喬太郎と上方落語1

土曜日のお昼は久しぶりの落語オフ,。そこでたっぷりと休息をとって夕方から銀座に出張り、喬太郎・福笑一門というすごい取り合わせの会をを観てまいりました。

暑かったですけれど、劇場に入って噺を聴き始めると、そんなことはどっかへ飛んでいってしまいました。

(ここから新作落語の内容に入る部分があります。ご留意の上読み進んでいただきますようお願いいたします)

.・柳家喬太郎と上方落語1

☆ 立川こはる 「真田小僧」

この方初見です。正直言いますが、最初出てきたときには、なにか華奢でボーイッシュで、大丈夫かなと思ったのですよ。しかし、噺が始まってびっくりしました。切れがよい。語り口がよい。まっすぐに噺がやってくる。最初の部分はちょっと型どおりの感じだったのが、噺があったまるにつれて、物語の時間が舞台からどんどん広がって場内を取り込んでいく・・・。後で調べたら立川談春師匠に入門して2年半、まだ20代中盤の女性なのですが、いや、ジェンダーなど端から凌駕し、修行経験の浅さなどまったく感じさせない。

グイグイ物語を運んでいく力があってしかも力の出し方に無理がない・・・。だから、登場人物の言葉ひとつに本来宿っているニュアンスが噺の勢いを上げてもこぼれることなくしっかりと観客に根付いていくのです。そして積み重なり噺の世界として観客の心に広がっていく。こういう才には生まれ持ったものがあるような気がします。もちろん、談春師匠が彼女の才能をうまく引き出しているのでしょうけれど、これはすごい・・・。

まだ前座さんのレベルでしょうし、噺の切替の一瞬の不安定さとか、所作の微妙な硬さやぎこちなさとかいうのはあるのですが、それは、キャリアを積めば熟して化けていく類のものでしょうし・・・・。少なくともおまけの領域に置いておいては贅沢が過ぎて罰があたるほどの高座、近い将来、また彼女の高座にめぐり合えるのがすごく楽しみ・・・。

開口一番に彼女が出てきたことで、なにか高座のハードルが一気に上がったような気がします。

☆ 笑福亭たま 「胎児」

前座の段階ですでに観客があったまっているところへショート落語をかまして、さらに観客を馴染ませて・・・。たまさんの小噺的なさわり、聴くたびにレベルがあがっていくような気がします。2年前に聴いたときには観客に攻めかかる感じだったのが、今回は逆に観客を高座側に誘い込んで手のひらであそばせるようなゆとりを感じました。緩急の付け方が滑らかになったので、観客側にかまえるような部分がなくなったような・・・。勢いを殺すことなく客の胸襟を開かせるゆとりのようなものが出てきたように思います。

本編には工夫がいっぱい。帯をほどいて胎児のへその緒というのはご愛嬌。、逆子の形を高座でみせられたのにはちょっとびっくりしましたが、うまいことはまってました。ただ、はまり過ぎて観客が爆笑しないで納得してしまった感じ・・・。高座側はちょっとさびしい感じがしたかもしれません。

観客として高座の満足度は十分、でも、師匠的にはなにかをまだ模索中だなという感じがしたのも事実。突き抜けた噺がさらにもう一段化けるための何かをじっくり探している印象を受けました。

☆ 柳家喬太郎 「本当のこと言うと」

前日までの2日間の独演会で抜け殻になっているというつかみから始まって、さらっとお茶漬けで枕をすませるのかと思いきや、前日の独演会をしのぐような絶好調ぶり・・・。自らの銀座との縁の噺から始まって、SWAの新しいユニホームのしつけが取れていないのをこはるさんに直してもらってという話から派生して、挙句の果てにはこはるさんのいるであろう下手に向かって土下座をしてみたり・・・。

しかし、噺に入るとそこは喬太郎師匠のこと、ぐっと場を締めたうえで手練で客を追い込んでいきます。初めて彼氏の親のところに挨拶にいくカップルの噺なのですが、ホームドラマの一シーンのような胸キュン話になると思えばさにあらず、なると巻きが出てくるあたりから少しずつ噺が常軌を逸していきます。善意のトーンを元に、だんなの妹にソープ勤めを強いるまでに狂気をどんどんと醸成させいく手腕の見事さ、微妙な価値観のかけ違いを重ねて観客を噺から逃げ切れないように引きずりこんでいく。

まあ、どこまでの狂気を笑うか、どこをボーダーラインと感じるかは観客の価値観によるのでしょうが、観客全員が引いてしまうというその一歩手前ですっと引いて、ぞくっとするほどクールなさげにもっていくその手腕のあざやかさ。

そんなに長い噺ではないのですが、料理名人の手で素材にボリューム感とシュールさと軽さを与えられ、全部まとめてひとつの重箱に詰められたような・・・、古典にはない新作のよさを生かしたそれは見事な高座でした。

中入り

☆ 笑福亭福笑 「絶対絶命」

この噺は昨年の福笑師匠の独演会で聴いて驚愕した覚えがあります。福笑師匠の場合、「ちりとてちん」を演じるときにも、元祖長崎名産を食べた後で竹さんがしっかりとリバースするとこまでやられますから、少々のことがあっても驚かないのですが・・・。まさか、ここまでやりはるとは思わなかったもので・・・。

しかし、今回2回目を聴いてこの噺の秀逸さがよくわかりました。まあ、ねたをばらせば便意をこらえて悶絶する女性の話ですから、どう演じても上品にはならないのでしょうけれど、福笑師匠はその設定で下卑に笑いを取るのではなく、ある意味冷徹に演じる中で人間が持つ本質を確実に浮かび上がらせていくのです。

前半は笑いの基本を見事に織り込んて噺を組み上げていきます。錯誤、繰り返し、誇張といった手法がバランスよく使われて、笑いが次々と掘り起こされていきます。女性の排泄欲そのものから来る原始的な笑いではなく、そこから微妙にずらした周辺の事象から笑いがやってくることで、ワンショットではなく波状的な笑いが生まれるのです。

後半になると、噺が常なる世界を突き抜けて桑畑での女性の排泄までいたる。そこで表現されるのは何かを投げ出した女性のすごさというかたくましさというか・・・。羞恥の箍が外れてしまった女性は、満天の星を眺め、天の川の牽牛織女を思い、ロマンチックな気分で「月の砂漠」を歌うのです。合間に福笑師匠が客観的に表現する排泄音が響き渡り、人間が究極の状況を超えたときの姿が見事に現れる。挙句のはてに、付き添ってくれた男性に排泄をしながら求婚までしてしまいます。状況を切り離した上でロマンに身をゆだねる女性の姿、人間が精神の安定を確保するための底力のようなものを福笑師匠ある意味クールに描き切っていく、・・・。噺の好き嫌いは当然にあるのでしょうがその女性の根幹を描ききるだけの力を持った落語家自体、そうめぐり合えるものではありません。その上爆笑を取るわけですから・・・。

福笑師匠、面目躍如の高座でありました。

☆ 柳家喬太郎 「純情日記(横浜編)」

福笑師匠、喬太郎師匠へ「次をやりにくくしたる」と声をかけて高座に上がられたそう・・・。とはいうものの、喬太郎師匠もこういうやりにくさは想像されなかったのではないでしょうか・・・。

喬太郎師匠、高座に上がり一瞬言葉を止めた後、「なにを話せばよいのでしょう」。ちょっと座を弛緩させておいて、自分の間に持っていってから枕に入ります。してやったりの福笑師匠のあと、あわてずゆっくりと時間をととのえて・・・。

そして、前半よりやや抑え目の枕から、すっと「黄金餅」にはいる。語り口、私がCDで聴いた芯ん生師匠にどこか似せてあって・・・。大ネタで福笑師匠の色を消す算段かとおもいきや、これが落語研究会の男の練習風景になってしまう・・・。いやぁやられたと思いました。しかし、すかされたと思った「黄金餅」、これが噺の途中で見事に生きてきます。

たぶん喬太郎師匠が、それこそたま師匠のように、一生懸命いろんな落語のスタイルを模索していた時代の作品なのでしょうね・・・。固定電話が出てきたりと新作の中の古典の風合い・・・。バイト先の男女のちょっと昔風のデートが展開していきます。街は横浜、オシャレなスポットといってもそれほど知っているわけでもない、ちょっと甘酸っぱい雰囲気を漂わせながら横浜の街を散策するふたり・・・。

そこでふたたび姿を見せるのが冒頭の「黄金餅」、下谷から麻布絶口釜無村木蓮寺までの言い立てのパロディで二人の時間を表現していくのです。

http://d.hatena.ne.jp/foujita/20031001(「黄金餅」の言い立てはこちらに載っています)

たぶん昔からの喬太郎ファンの方には有名なくだりなのでしょうけれど、初めて聴いた私はその本家取りの鮮やかさに,マジでぞくっときました。志ん生師匠のCDにある「黄金餅」の言い立ては、葬列が歩く距離が少し長い分口調が早い印象がありましたし、少しだけ早い口調で演じれば今志ん生の世界が豊潤に広がったかも・・・。しかし、そこを抑えて噺のテイストを自分の側に残しておくところにこそ、喬太郎師匠のセンスがにじみ出ているようで。

終盤はちょっとビターなテイストもいれこんで、味わい深く会を納めていただきました。

こはるさんから始まったこの会は、本当にボリュームたっぷり・・・。高い密度をもった時間をすごしました。これだけの才能が集まると、やっぱり常ならぬ聴き応えがありますね・・・。

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