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「俺を縛れ(柿食う客)」のパワー「IdoIwant(空間ゼリー、2回目)」の成熟、

6月21日、柿喰う客「俺を縛れ」をマチネで、「IdoIwant」の2回目をソワレで観てまいりました。まったく毛色の違うお芝居でしたが、観るほうも昼夜で使う筋肉を切替えて、両方ともたっぷりと楽しませていただきました。特に空間ゼリーの今回の舞台は私にとっても記憶からきえないであろうほどの印象を受けるものになりました。

(ここからネタばれがあります。ご留意ください)

・柿喰う客 「俺を縛れ」

勢いに観客が圧倒される芝居、パワーでこれほど押し切る芝居を久々に観ました。2時間15分の上演時間全体に疾走感が充満している感じ・・・。しかし、なりふり構わずという感じではなく、そこには硬質な枠があるのです。冒頭のくすぐりのようなシーンがしっかりと後につながって物語の外枠を作っていたり、突飛な物語設定が実はしっかりとしたモチーフに裏打ちされていたり・・・・。様々な遊び心の裏にもたっぷりと観客をコントロールする根があって、スピードに目を奪われている観客のサブリミナル的な部分を搦め手からしっかりとおさえていきます。

9代将軍家重が放ったキャラクターの統制という生類哀れみの令にも匹敵するようなお達しに、翻弄される大名達、そのなかで貧困にあえぎながらも幕府に対する忠誠心溢れる小藩が、「裏切り大名」というキャラを押し付けられたことが物語を大きく動かしていきます。将軍自らに仕向けられるように始まった反乱、将軍の身近にまで迫った裏切り大名・・・、その顛末は・・・。

物語にしても、演技にしても、殺陣にしても、完成度という点ではまだ進化するスペースがあるような気がします。でも、役者達の弾けるような切れや力がそれらのゆるさを吹き飛ばすのです。振り回しているようにすら見える力にも、切先の乱れがないというか太刀筋に迷いがないく、しかも冷徹な意図がコアに内在している・・・。だから、見栄えに多少の無理や無茶があっても観客は舞台にしっかりと繋がれたままでいられる・・・。舞台上の流れにするっと入り込んで、むちゃぶりとも思える将軍のルールが引き起こす顛末にも違和感なく流されていける。レールへの信頼感を持ってジェットコースターのような物語の流れを楽しめる。中屋敷の戯曲・演出がくりだす大技/小技もしっかりはまって観客をさらに舞台に巻き込んでいきます。

物語の行き着く先は統制されるのではなく、開放されるのでもなく、暴れる素の気持ちを抑えて、抱きしめられるような中庸さの枠に閉じ込めての、フルコーラスを歌い上げるような世界。そして、それでもなおかつ残る葛藤が一刀のもとに切り捨てられる・・・。力と切れで走り抜いたような舞台が一気に色を変えて、作者のあからさまな心情が見事に浮かび上がってくるのです。

まあ、2時間を越える疾走感に身をゆだねるだけでも、エンターティメントとしての食べ応えたっぷりだし、その力がなければ表現しにくい想いがあるのも事実。

次の公演にも心惹かれるなにかが、存在する舞台でもありました。

役者のこと、堀越涼、丸川敬之の花組芝居組には芝居に懐の深さがありました。佐藤みゆきのエッジがしっかりした芝居も魅力的でした。こいけけいこの演技には落語などでいうフラがあって良い味を出していたと思います。石橋宙男、浅見臣樹、花戸祐介、さらにはの演技にも堅実さがありました。川端舞香はキャラクターを着実に演じて好演、梨澤慧以子のちょっと蓮っ葉な感じにもキャラクターの説得力がありました。梨澤が持つ華には舞台を染めるような力があって、下世話な演技との落差が良質な笑いとなっていました。森桃子は自分のペースでの仕事がしっかりできていた印象、彼女にもコメディエンヌとしての天性を感じます。村上誠基は怪演、それも突っ張りとおして観客のほうがならされてしまうような力を持ったものでした。

柿喰う客の役者達の演技は個性的でした。七味まゆ味の演技には大きさがあって、一方でなめらかさがありました。その大きさが前半と後半のキャラクターの落差をよりしっかりと見せていたと思います。コロの演技には切れのほかにちゃんと公家としての雰囲気がありました。本郷剛史もキャラクターを守る演技で舞台の色をコントロールしていました。高木エルムには朴訥とした中に潜むパワーがしっかりと観客に伝わってきて、そのキャラクターにも不思議な説得力がありました。作・演出でもある中屋敷法仁の水戸黄門はちょっとご愛嬌のような部分も・・・。

玉置玲央の演技の切れは格別です。動きの力感としたたかさを表現する力が同居するような演技、一方脆さの表現にも説得力がある・・・。切れているだけでなく観客がぐっと押されるほどの空間の支配力が彼の演技にはあるのです。

この芝居、観ている観客に快い疲れを感じさせるほどの役者の熱演があって、しかもそれが空回りすることなく機能している・・・。力技といえないこともないのですが、力技からやってくる充実感もあり、それを制御する繊細さも持ち合わせているわけで・・・。

中屋敷ワールド、たっぷりと、楽しませていただきました。

・空間ゼリー 「IdoIwant]

一週間おいて2度目の観劇。劇場にはいってちょっと驚きました。舞台の向こう側にも客席が・・・。舞台が両側から挟まれているのです。今回は劇場の奥側の客席で観覧・・・。

しかも1度目の時とくらべて役者達の位置もかなり違っていて・・・。せりふやイベントは一緒なのですが・・・。でもある種の新鮮さがあって。このような柔軟さは私のようなリピーターにとってはなにかふくらみを感じる部分もあるし、もしかしたら演じる側にも同様の効果があるのかもしれません。

芝居は、1回目の観劇時の秀逸さをそのままに、さらに役者の熟達が加わっているような・・・。前回瞠目した舞台がさらに進化していることは驚きでもありました。台本のしたたかさを同じように感じつつ、役者それぞれが満たす空間が広がっているような・・・。

私が座った位置からは、他の役者が舞台の中心にいる時にも斎藤ナツ子細田喜加の表情や感情が舞台の奥や横に垣間見え(前回は他の役者やPCでやや見切れていた)、無言であっても彼女達が舞台の空気を深く染めつづけているのが伝わってきます。舞台上の斎藤の肌理細かく、浸潤するような、絶妙な深さをもった仕草、細田の感情が積もっていく姿のしなやかなこと・・・・、しかもそれらが次の演技にシームレスに繋がっていくのです。佐藤けいこ北川裕子にしてもそう。私からはほぼ背中になる猿田瑛塚田まい子にも、ほとんど見切れてしまっている大竹甲一や、阿部イズム西田愛李も、部屋の散らかった本を整理している成川知也も・・・。単純にひとりの役者が物語を綴るのではなく、舞台にいる役者がそれぞれに色を持って空間を動かしている感じ。

この空間が安梨美羽が入ってくるシーンにも大きな説得力を与えて・・・。

一方その空間に流されない演技のテンションがシーンの中心にいる役者にはあって・・・。たとえば半田周平の凜とした演技には質量と熱があり、岡田あがさの苛立ちには舞台の空気に抗うだけの厚みとしなやかさがあって、それぞれがその空気に埋もれるのではなく、その空気に映えるだけの力を持った演技をしている。

そして、もうひとつ、役者間の思いの受け渡しも秀逸なのです。大竹甲一と塚田まい子のシーン、塚田まい子は背中で想いをしっかりと表現していて・・・、そして大竹甲一の表現の柔らかさ・・・。重さをしっかりコントロールした言葉が塚田まい子にそっと乗せられる感じ・・・。細田喜加と岡田あがさの間での成川知也が細田を支えるときの複雑な表情にもはっとするような強さとバランスがあって・・・。逆に岡田あがさとの負の思いの受け渡しまでが生々しく伝わってきます。

この舞台、良い表現が見つからないのですが・・・、観客をとりこんでいくような奥行きと深さが観客の肌にまでつたわってくるような感覚があって・・・。舞台の時間に鼓動すら感じる。作、坪田文が仕組んだドラマ構造の巧みさや演出の深寅芥の秀逸さを再確認すると共に演じる役者達の力を再び思い知った2度目の観劇となりました。

遅くなった帰りの電車のなか・・・、空間ゼリーという劇団、作者、演出、さらには客演の役者たちまで、観続けたくなるものをたくさん抱えさせてもらったことに気がついて・・・。でも、こういう感覚って芝居好きには本当に幸せなこと・・・、よい舞台を観せてもらったと思います。

☆☆☆ちょっとおまけです。21日の観劇で感じたことをもうひとつ・・・。☆☆☆

「柿喰う客」と「空間ゼリー」に共通していえること。双方とも自由席だったのですが客に対する対応がすごくよいのです。柿喰う客はキリンバズウカで好演した田中沙織さんが制作として赤のメイド服で陣頭指揮をとっていらっしゃいましたが、きびきびとした感じのスタッフは観ていても気持ちがよかったです。「空間ゼリー」も観客に対してフレンドリーな感じというかあたたかさがあり、なおかつ適切な客の誘導をしていました。良い芝居をする劇団は不思議とこういうスタッフワークもしっかりとしているようで・・・。おかげさまでとても気持ちのよい観劇ができました。

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