それでもまだ、上を目指す福笑師匠「横浜にぎわい座、上方落語会」
たまたま、機会がありまして、5月10日は桜木町におでかけ・・・。で、8年ぶりに会った友人と横浜にぎわい座の「第十七回上方落語会」を聴いてまいりました。
雨がしとしとの土曜日でしたが、中華街でゆっくりとお昼を食べて、つもる話を半分くらいして・・・。まあ、8年というのは長いような短いような・・・。
で、そのあとがお楽しみの落語会、友人も私も関西出身ということでたっぷりと楽しんでまいりました。
(一応創作落語のネタばれなどもありますので、ご留意くださいませ)
・桂ちょうば 「いらち俥」
開口一番ということで、やっぱり勢いのある噺をもってきはりました。よう、こなれてる語り口で・・・。前半の病人が車を引くところが細かくて、しっかりと地についているというか馴染んでいるというか・・・。落ち着いて聴ける感じ。結構年配のお客さんが目立っていたので、気持ち抑えて演じられたのかもしれません。
後半の韋駄天走りは次第に狂気が積まれていくところがすごくよくて・・・。
疾走感だけなら他にも優れた噺家さんがいるのでしょうが、そこに加わる狂気の質はぴか市だったと思います。
・桂三若 「ひとり静」
初見ですが、才溢れるというか、天性の客の掴み方をもっている噺家さん・・・。ぐいぐいと観客を引き込んでいきます。この噺、横浜でやると、関西でやるのとは観客の視点がまったく逆のニュアンスが客席に生まれるような気もするのですが、それを超越した噺の魅力をしっかり出していて・・・。
とにかく息もつかせないギャグの積み重ねで観客をだれさせないのです。座っている座布団の乱れも気にならないという感じの熱演。噺の間というより、話と話の切れ目の間の持ち方が絶妙で、客席の笑いの炭火に旨いこと空気を送るような・・・、結果身をよじって爆笑する観客続出・・・。
雨の日、お足元が悪くても、こういう勢いのある高座を聴くと、心がからっと晴れます。
・笑福亭岐代松 「手水廻し」
やはり初見の噺家さん。丁寧な語り口です。芸も肌理が細かくて、ゆったりと観客に染み入っていくような・・・。一種の味があります。
ただ、もうひとつ引き込む力がほしいところ。ちょっと地味な感じの手水廻しで、それゆえに、滑稽な仕草などがいまひとつ膨らんでこない・・・。洗面器一杯のお湯を飲んだ仕草がちょっと生々しさにもつながるようで・・・。リアルであるということと、上手ということの狭間に入り込んでいるような・・・。
実ははめ物がどんと入るような噺などのほうが、かえって似合う噺家さんなのかもしれません。しっかりとした力が伝わってくるだけに別の噺も聴いてみたい気がしました。
・笑福亭福笑 「千早ふる」
師匠のこの噺、3度目なのですが、そのつど進化しているのが恐ろしい・・・。以前聞いたときにも福笑流の完成度の高さに舌を巻いたのですが・・・。まだ進化しはる。目を見張りました。前回聴いたときには勢いで押していた人物描写が今回はしっかりと計算されて積み重ねるように笑いがやってきた・・・。
それと噺の輪郭がくっきりしている・・・。オチの伏線が何度もふられて終わったときのあとくちがすっとした感じ・・・。師匠の芸風に噺としての道筋が緻密に通るとこれはもう、鬼に金棒なわけで・・・。噺を磨きつづけてはるのが実感として伝わってくる。
最初の詠み人読み違えのくすぐりからオチに至るまで、腹筋が痛くなるほど笑わせていただきましたが、もはや師匠の「千早ふる」はおもろいだけがとりえの爆笑噺ではない。知ったかぶりとそれを突っ込む二人の人物描写がますます磨かれて、しっかりと筋が一本通った、芸術性すら感じさせる古典に仕上がっておりました。
中入り
・笑福亭鶴笑 パペット落語 「立体西遊記」
髪切りと立体落語、明るい芸風がよろしい。切った絵を見せないというようなたわいないギャグも、ばっと咲いたような芸風のなかでよく効いていたと思います。立体落語は・・・・、くやしいけれどうけてしまいました。なんというか、こちらの予想を常に一歩超えた芸をしはるのですよ・・・。そのギャップが続くと、何をされても笑ってしまうような状態に陥ってしまう・・・。ここまでやられると趣向を超えて芸の世界です・・・。最初は何やこれくらい思っていたのが、ここまでやられるとけっこうはまってしまって・・・。なんかもう一回観たい・・・。西遊記以外のねたもあるのしょうかねぇ・・・。なかったら作ってもらいたいものです。
・笑福亭福笑 「もう一つの日本」
古典が一席、創作が一席、福笑師匠のいつものパターン。今回はその両方に人物描写の深さが際立っていました。以前に聴いた師匠の「今日の料理」なんかにしてもそうなのですが、文化の違いをネタにするときの師匠の観察眼の鋭さには瞠目するばかりです。
「千早ふる」同様、こちらも噺に筋がすっと通っている。むちゃくちゃなギャグもあるのですが、前半の部長の人物描写がすごくしっかりしているから噺が撚れない・・・・。こんな外人はおらんやろと思っていても、師匠の噺がすすむうちに、部長とのやり取りから鮮やかに外人ビジネスマンの人物像が浮かんでいく。いったん人物像を観客に植え付けたらあとは鞴を踏んで一気に膨らませて・・・、その波状攻撃は福笑師匠の独壇場で・・・。
この噺も聴くのは2回目ですが、前回より間違いなく進化してる・・・・。前回聴いたときにも十分面白かったのに、師匠の中では完成ではなかったのかもしれません。勢いと思いつきで噺を進めているように見えて、その裏では無駄を削り、噺のエキスを煮詰めて完成度を上げてはる。芸人の根性というか心意気がが実は隠し味になっていて、同じ噺でも観客を飽きさせない。福笑師匠、やっぱりただものではありません
横浜にぎわい座もほんとうに観やすい小屋で・・・。アットホームさとおしゃれさが同居して演者を引き立てるようななにかがある・・・。中入りに売店でアイスクリームを買って、座席で食べながら後半を待つなんていうのもなかなか良いもので・・・。
上方落語のパワーが溢れかえった良い会でございました。
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