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草彅剛の補色を作る、大竹しのぶの演技の確かさ「瞼の母」@世田谷パブリックシアター

前の記事と前後しますが、5月12日の仕事帰り、世田谷パブリックシアターで「瞼の母」を観ました。まあ、役者の豪華なこと・・・。篠井英介三田和代など、主役級の役者を湯水のように使って・・・。でも、見せ場はやっぱり主役の大竹しのぶ草彅剛のからみにありました。

(ここからネタばれがあります。十分ご留意いただきますようお願いいたします)

草彅剛は初見です。

序幕一場、家を飛び出してやくざに片足突っ込んだ高橋一生と三田和代が絡んでいるあたりは、ごく全うな世話物を観ている感じ。こういう繊細さとつっぱりが半々というキャラは高橋一生にとってははまり役、西尾まりの着実な演技にも三田和代が熟達の技で塗り替える空気にもすっと馴染んで・・・。さらに富岡弘福井博章たちが世界をさらに作り上げる。安定した良いお芝居なのですよ。で、そこに草彅剛が出てくると・・・・、どこか馴染まないのです。良いとか悪いとかではない。草彅のトーンが違う。下手ではないのだけれどなにか場がひとつにならない・・・。草彅剛だけ溶け合わないというか色がなにか違う感じなのです。すでに出来た世界に草彅剛が浮かんでいるような・・・。強さを前に出すときの草彅剛は、他の役者達がかもし出す、時代劇のくすみのようなものと色合いがどこか異なるのです。

しかし二場になって篠井英介とのからみになると、雰囲気ががらっと変わります。篠井の柔らかい演技に草彅の透き通った部分がすっと引き出される感じ。その透明感が抜群なのですよ・・・・。あの凜とした雰囲気と微かな甘さ・・・。さらには言いようのないはかなさを秘めた忠太郎の気配は、草彅以外誰にも出しえないのではないでしょうか・・・・。篠井の丁寧な老婆の演技に草彅の影がついた繊細さが染み渡っていくような感じ。観ていて一気に取り込まれてしまう・・・。また、梅沢昌代野間口徹とのからみもウィットのなかに市井の何気ないあたたかさが浮かんでくるようで、味わい深かったです。大詰一幕の神野三鈴との絡みでも十分な味わいを出していたし・・・・。

でも、そこまでは常の芝居、圧巻というか常ならぬものとして見入ってしまったのは、大竹しのぶと草彅剛が演じる忠太郎とおはまの親子対面の場でした。芝居の一番の見せ場というだけでなく、このふたりだからこそ築き得た稀有な時間、ここはがっつりと見ごたえがありました。広い舞台のなかに二人・・・、互いの視線があからさまにぶつかることはなく、空気だけがぐっと締まっていく。千々に乱れる思いを内に秘めた大竹のせりふに、観客の息まで止めてしまうような間・・・、大竹の感情がゆっくりとあふれ出し舞台全体をおはまの想いに染めてしまう。でも、その圧倒的感情表現に草彅がつぶれないのです。それどころか、大竹の作る色が補色となって草彅演じる忠太郎の思いが見事に際立っていく・・・。草彅は大竹の色にあがなうことなく、自分の色をしっかりと醸成していくのです。乱れる内心をぐっと押さえる大竹の芝居の豊潤さに瞠目しながら、やがて草薙の内に秘められた輝きに目を奪われる・・・。。。まさに舞台の贅沢、極みを観たような・・・。

それは草彅剛という役者の非凡さを見た瞬間でもありました。場に馴染んだ独特の声質、よく通るせりふに籠められた想いには大竹演じるおはまの想いに拮抗しうるだけの存在感があって・・・。その相乗効果が、非常に良質な舞台上の時間として観客を魅了していく・・・。しかも、草彅の力量ある存在感にあざとさがないので、観客の心が一気に浸潤される感じ。

草彅剛は、役者として、アベレージヒッターのように見えて、実はホームランバッターなのかもしれません。すべての芝居を器用にこなすには難しい部分もありそうですが、つぼにはまったときの力はものすごい。

こうなると、最後の幕によけいなしつこさはいらない。大竹や草彅が前場の流れでそれぞれに話を進めていく中で、脇を固める役者達も物語の色と勢いに任せて、小気味よく話を進めていく・・・。役者達の力配分がまた見事・・・。能ある鷹の爪を隠して地道に芝居をこなす篠井をはじめとする役者たちがまたよいのですよ・・・。でしゃばらず、一方でつぼだけをしっかり押さえて。引く所は引く芝居が出来る役者がいるから、大竹演じる慙愧の念も、草彅の満たされないままの気持ちもしっかりと舞台に残って・・・・。

まあ、脇を固める役者の贅沢さにも、最初はびっくりしましたが、大竹と草彅のシーンにつりあった前後を作ろうとすると、高橋長英高橋克実市川ぼたんなどの役者が必要なのでしょうね・・・・。その他、森本健介、塚本幸男、春海四方、遠山俊也ひがし由貴、岸昌代、・・・。役者にはずれがない芝居でありました。

この芝居、いろんな評価や賛否はあると思うのですが・・・

わたなべえりの今様な流れのよい演出も馴染みやすく、時間を忘れて駆け抜けるように見入った90分。私は、少々お高いけれど、一見の価値ありだと思います。

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