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北京蝶々「あなたの部品」ひりっとくる空気の切れ味

4月20日マチネで北京蝶々の早稲田大隈講堂裏最終公演「あなたの部品」をみました。近年珍しいほど時代をフェアに捕らえた作品。若手演出家コンクールの作品賞を取っただけのことはあり、時代とフォーカスがぴったりとあった見事な作品となりました。

(ここからはネタばれがあります。十分にご留意ください)

物語は近未来、オリンピック開催を前にした日本、腕を持った義肢装着技師の家で物語が展開していきます。

人体のさまざまな部分が人工のものに置き換わって、さらに元来のものより高い機能を発揮するまでに技術が発達した世界、一方では資源の枯渇やナショナリズムの台頭が社会にある種の影を作り出している・・・。その中で義肢装着技師の男とそこに訪れるさまざまな人物が独特の空気を作り出していきます。

物語は、現実ではなく、空想でもない、現実にあるさまざまな萌芽が成長した仮想空間でで描かれていきます。ナショナリズムの匂い、国に対する忠誠心のあからさまな強要、豊かさを失っていく中で価値観の軸があきらかにずれこんでいく・・・。豊かさを失った国で「テレビ進化論」にもあった不明瞭な多数の意思がさまざまな形で実体化していく。一方では経済のグローバル化やさまざまなイデオロギーが日本人や日本にいるアジアの人々を蝕んでいく・・・。

しかし、それらを構成するのは個性を持った個人・・・。そう、世の中がどうのというような大上段に構えた表現ではなく、個人それぞれの姿をキャンバスにしてさまざまな世界観が色づけをされている・・・。だからこそ、舞台には戯曲の行間でしか表現し得ないようなリアルな空気が存在するのです。、日常のなかにひりっとくる独特の空気・・・。柔らかく締め付けられるような継続的な緊張感・・・。自らの良識が次第に蝕まれていくような感触。なにかが麻痺していくような高揚感・・。時代は繰り返すといいますが、きっと戦前の日本がそんなかんじであったろうというような、しかし、そこは間違いなく未来の世界・・・。

作・演出の大塩哲史は冷徹に不純物を加えずこの空気を舞台に醸成していきます。いけないとかどうするとかいう思いを排除しながら、物語が進行していく・・。だから、同じようなテーマでありながら教条的であったり、イデオロギーを観客に押し付けるような芝居のように観客の中で腐敗し濁るものがない。凜とした澄んだ感覚で物語が観客にしっかりと残っていきます。自らの思いを声高に叫ぶことで見えなくなるものがあります。大塩はとてもしたたかなやり方で、描きたい世界を観客に提示して・・・。結果、観客は言葉という線ではなく、舞台という空間でしっかりと大塩の描いた時代を感じ取ることができました。

役者もぶれのない演技で大塩のイマジネーションをしっかりと描ききりました。赤津光生のなめらかで広がりをもったキャラクターは物語のトーンをしっかりとコントロールしていたし、白石妙美はキャラクターからこぼれる心情の深さをたっぷりと描き出し、鈴木麻美の演技力はキャラクターがもつ良識や知性と頑なさと思想を見事にひとつの人物像として融合させていました。就労中国人役の帯金ゆかりも渾身の演技で、単にキャラクターの表面的な思いだけではなく感情の機微を息を呑むほどの細緻さで演じきって見せました。他の役者も力まずにしっかりとコントロールされた演技で舞台の空気に必要な色をしたたかにつけていました。

この劇団、大隈講堂裏を離れて、新しく船出するそうですが、そのセンスと力はすでに実証済。時代を見通す視点も実に秀逸で、今回の芝居にしても、公演期間中に聖火リレーの問題が噴出し、この芝居が持つ雰囲気が世間では現実になってしまったり・・・。

大塩の慧眼と戯曲の切れ、それを具現化する才能溢れる役者たち。新しい船出というよりも、発展期に突入したという印象の強い「北京蝶々」。今後の活動から目が離せません。

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コメント

おひさしぶりです。何時ぞやの通りすがりです。ここのブログはいつも好きで読んでいます。
今回観劇して改めて、北京蝶々は状況を置いていくことを得意とする劇団だなと私は思います。あまりにも抽象的で分かりづらいですよね。状況を観客に提示することがうまいということなんです。その状況で翻弄される人の描き方よりも私はそちらにうまさを感じています。事実を突きつけることに対して容赦が無いということなのかなと勝手に思っています。
北京蝶々を全て観劇した訳ではありません。ですので大口を叩きたくないのですが、私が感じていることは赤津さんの存在がこの劇団を大きく左右するということです。大塩さんという主宰の存在もあると思いますが、私は彼ほどの力量の役者を知りません。(観ている数が圧倒的に少ないだけなのですが)赤津さんが北京蝶々を離れないでもらいたい、それが私の願いです。
また、大塩さんには私は期待しています。彼の成長が演劇界にうねりを与えてくれると信じています。
これからが北京蝶々の正念場ではないでしょうか。今後の活動如何では小さな劇団で終わってしまうでしょう。小さなことがきっかけで状況は如何様にも変化してしまうと自分たちに言い聞かせて歩をすすめてもらいたいです。

投稿: 通りすがり | 2008/05/04 23:18

通りすがり様

コメントありがとうございます。いつもご贔屓をいただいているとのこと、あわせて御礼申し上げます。

赤津さんは、ほんとよい役者だと思います。懐の深さがあって・・・。北京蝶々の役者さんって、帯金さんにしても鈴木さんにしても、切れ味の鋭い役者さんが多いじゃないですか。そのよさを生かすためにも、赤津さんの懐の深さってすごく貴重だと思います。

飛行機でもテイクオフの時が一番パワーがかかるといいますし、そういう意味では北京蝶々も滑走を追えて浮揚しようという力のかかる大事な時期なのでしょうね・・・。まあ、個人的には、十分なキャパを持った劇団であり、順調に更なる力をつけていくのだろうなとは思っていますが・・・。

心配より楽しみが多い劇団、大塩氏をはじめ劇団のこれからの活動、いまからなんかわくわくします。

投稿: りいちろ | 2008/05/05 01:02

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