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素敵な2回目、空間ゼリー「私、わからぬ」/双数姉妹「やや無常・・・」

同じ劇団の同じ公演を観ることがあります。その芝居に深くインスパイアされて同じ公演期間中に2度見に行くこともあれば、その芝居に深い感動を覚えて再演を待ちかねていることもある・・・・。4月に入ってから2回目という観劇が二つありました

(ここからネタばれがあります。十分にご留意の上お読みいただきますようお願いいたします。

空間ゼリー 「私わからぬ・・・」 

水曜日(4月9日)に初日を観て、今度は友人と一緒に土曜日(4月12日)のマチネを観てまいりました。無論初日からドラスティックに変わったところはなかったのですが、お芝居のトーンとして微妙な変化がありました。まず、初日に比べて、役者さんの演技にやわらかさがあって、舞台上でのキャラクターから、気負いのようなものが消えていたような・・・。それと、個々のシーンがかなりわかりやすくなっていました。

一番端的だったのが猿田瑛演じる長女のアシスタント、初日にくらべて演技の力加減に滑らかさが加わって・・・、長女の夫との絡みも明確に見えるようになりました。携帯電話をそっと覗き見するシーンがあるのですが、その時のせりふと表情が実に秀逸。他の暗示的なせりふとのつながりもわかりやすくなり、彼女の舞台上での存在感も増しました。

麻生0児演じる父親の役も初日に比べて広がりがあったように思います。特に長女の夫に怒りをぶつける場面での感情表現に想いが純化した感じ。不協和音のようなものが消えて、まっすぐに想いが伝わってきました。

齋藤ナツ子、岡田あがさとも、演技にいっそう浸透圧が増した感じ。最後のシーンのニュアンスも、ただ刹那が積み重なっていくことへの切なさに、想いを求める次女と思いに向かうことにためらいを持った長女が同じ空間で一人の女性の想いに融合していくような印象が加わって・・・・。一層最後のシーンが豊潤に思えて・・・。

終幕後、個人的には初日よりポジティブな印象が増した2回目の観劇でした。

それにつけても、よく出来たお芝居だと思います。登場人物ひとりずつにしっかりとした描写があって、役者もしっかりとそれを演じきっている。こういうお芝居は、何度観ても飽きることがありません。一度観たお芝居なのに、褪せない新鮮さが舞台にある・・・。空間ゼリー、6月の公演もとても楽しみです。

双数姉妹 「やや無情・・・」

それ以前にも、双数姉妹はしっかりと観続けていた劇団ではあったのですが。2003年にこの芝居の初演を観たときには本当に感動しました。大倉マヤさんがまだ在籍していたころで、最初のシーンで彼女が机を並べてその空間を準備する意味が最後に鮮やかに表現されて、涙が一気に溢れてきたのを覚えています。

さて、今回の再演、正直にいうと少し不安でした。劇団の役者がかなり入れ替わりましたから・・・。昨年、新人団員を中心としたトライアル公演を観て、今林久弥、井上貴子、五味祐司といったベテランたちと新人達の実力差を目の当たりにして、新人達がどこまで追いつけるのだろうかと思っていたのです。

しかし、それは杞憂でした。今回の再演では、多少物語が具体的になって、現実と劇中劇のボーダーがわかりやすくなった部分がありましたが、基本の骨格は変わっていません。テーマの普遍性を一層際立たせるような見事な舞台を新人達も含めて見事に構築してみせました演ずるとは何か、なぜ役者達は舞台から観客に礼をするのか・・・。舞台の本質にかかわる普遍的な真理が、5年前と同じように見事に伝わってきて・・・。戯曲の秀逸性を新人達のすばらしい成長を再確認することができました。

役者のこと、佐藤拓之は初演と同役ですが、演劇に取り込まれていく姿は初演をさらに凌駕して見事でした。小さな暖かさや心の揺れの積み重なりが本当にしっかりと観客に伝わってきて・・・。

囚人達は新人男優を中心にベテランの中村靖が加わる布陣でしたがそれは見事なものでした、新人男優達はトライアル公演からは一皮もふた皮もむけた見事な演技で・・・。切れがあり、体育座りで待機していてもちゃんと時間を背負うことができる。劇中劇のでもピンと張りのある演技が観るものをここちよくさせる・・・。一人ひとりに舞台の緊張を維持するだけの力がありました。鰻家喜平治の模範囚がかもし出すずる賢さがいい味を出していて・・・。新人の河野直樹、熊懐大輔、宮田慎一郎が演じる囚人たちも本当に切れのある演技、しかもそれぞれのキャラクターが内包されていて、全体として刑務所の空気をしっかりと構築していました。また、刑務官をやった新人、青戸昭憲のきびきびしたなかにあるウィットのようなものも魅力的・・・、生真面目さがうまく表現されていました。

新人女優も出来がよかったです。辻沢綾香の「役者役」には独特のテンポがあるのですが、それが役柄にしっかりと寄り添っている。浅田よりこ演じる不良少女も感情の入り方がすごくいい。彼女には役柄がすっと降りてくるような才能を与えられている・・・。だから観客の感覚に無理なく色をつけられる・・・。

その不良少女を初演で演じた吉田麻起子には貫禄がついてきました。初演で大倉マヤが演じた役ですが、だいぶニュアンスが骨太になった感じ・・・。初演に比べて演劇への夢というピュアな部分を減じてはいましたが、演劇の可能性を信じるという気持ちを大きく舞台に持ってくる効用があったと思います。しっかり抑制の効いた演技には舞台を動かしていくだけのパワーが宿っていて・・・。華奢な体躯とは裏腹に演技筋ががっしりついてきて、頼れる役者に成長した感じがします。

小林至のちょっと投げやりっぽい演技の味わいは、初演からしっかりと磨きがかかってもはや芸術の域、五味祐司の一見不器用な演技も舞台での存在感につながって・・・。井上貴子のしなやかな演技はため息が出るほど安定していて・・・。ここの役者には鍛えられた安定感があって、揺らぐことがない・・・。初演に続いて客演の中村彰男の演技にも見ごたえがあって・・・

後半の劇中劇と劇外の芝居のクオリティが一致していくなかで、演ずることの動機や理由のようなものがが次第に観客にも伝わってきます。強制から自発への転換点があって・・・・。公演中止の決定が言い渡されたとき、看守も含めて演技に再び入っていくその瞬間にやってくるぞくっとするような高揚感。劇中劇のなかで演技を終えて、本来の客席に背を向けて劇中劇の観客にたいして頭を避ける役者達の仕草に、潮が満ちるような感動が観客を捕らえます。そして、ほんの少し遅れて演ずるという行為の意味が観客に実感として伝わってくる・・・。

作・演出の小池竹見の代表作品ともなるべきこの戯曲、本当によい時期に再演されたものだと思います。新生双数姉妹が過去の力を取り戻したことを印象付ける作品となりました。

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