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戻ると広がるその渋さ・・・ JACROW「斑点シャドー」

3月15日マチネでJACROW「斑点シャドー」を観てきました。人身事故で埼京線が止まってかなりあせりましたがなんとか開演前に到着、前回新宿で1時間の時間制限ステージを見たときにきらっと光るものを感じていた劇団ですが、理詰めで物語を作っていく部分がありそうで、意地でも最初から見ようと、駅の階段を走りました。

結果、それだけしんどい思いをした甲斐は十分にありました。

(ここからネタバレがあります。まだご覧になっていらっしゃらない方は、お読みになられないようお願いいたします)

物語は、とある会社の社員住宅。その上下2世帯を中心に話が進みます。いや、話が進みますというのは正しくないですね。冒頭のシーンが、女性のもとに妹らしき人が尋ねてくる。そのアパートでは事件がおこっている。上に住む女性が包丁で刺されたという・・・・。このシーンが0地点となり、そこから逆の時間軸で物語のルーツへとステージが進んでいきます。

それは過去が挿入されるというような生易しいものではありません。1日前、4日前とどんどんシーンが戻っていくのです。そこで物語の因果が演じられていくという趣向。犯人探しとかそういう単純な話ではなく、そこに至るまでの絡まりあった人間の関係や感情などがさかのぼる時間の中で、観客の視野を広げるように表現されていきます。

前回公演のように切れのあるすばやい物語展開ではなく、心情を細かく積み上げるように物語が紡がれていくのです。

前回公演同様の二つの空間を一つの場所で演じる手法が今回も取られています。具体的には上下二つの部屋がひとつの空間で演じられるのですが、これが意外な効果を呼びます。その世界の閉塞性がすごくよく伝わってくるのです。社員寮という世間の枠が狭い世界、その息が詰まるような雰囲気が見事に浮かび上がってきます。また、同じ時間を分割して表現するされても、この手法なら違和感がほとんどありません。

役者達はとてもオーソドックスな演技の中で、じっくりとシチュエーションを構築していきます。きちんとその前(演じられるのは後)の因果を踏まえての演技なのですが、その提示の仕方に無理な力みや妙な気負いがないのが見事で、観客は違和感をもたずに過去の物語に入り込んでいきます。一本の木を根から堀り起こしていくように、幕ごとに地中の絡んだ根がほどけて、個々のの登場人物のバックグラウンドが明らかにされていく。

観ていて不思議な感じでした。時間が戻るたびに傍観者としての目がさえていくというか、目からうろこがシーンごとに落ちていく感じ。奇をてらった物語ではないのです。人間の建前と隠したい部分の絡まり方などすごくリアリティがあって・・・。そのリアリティが観客に適度な質量で積もっていきます。べたつかずクールな感じで。

舞台上にある独特なトーンや緊張感は前回の公演にもあったスタイリッシュな部分が腰を据えた舞台で形を変えて旨く生きたということなのでしょうね。結果として観客には柔らかい着地で物語を受け止めたような感覚が残って・・・。時間が戻った最後のシーンがじわっと染み入ってきました。

時間のさかのぼりを暗示する選挙のアナウンスも見事な工夫でした。声が風景の色に溶け込んでしっかり意識にのこる・・・。さり気なく物語の外枠を作る見事なファインプレーだったと思います。ポスターの工夫も良くできていた・・・。

なによりも、このトーン、ちょっと癖になるかもしれない。

役者のこと、菊池未来、蒻崎今日子とも感情の出し入れがとても秀逸。素の部分の演技に張りがあるので、ふっと見せる思いが映える感じ。木村美月の切ないような想いの表現も舞台の中でしっかりと存在感がありました。成川知也、三浦知之、仗桐安、三浦英蔵のあくの強さも舞台に馴染んでいたし、加藤敦、今里真の微妙な感情の表現も舞台の空気をしっかりと作っていたと思います。この芝居、観客にとって役者の色に寄りかかって観れないとけっこう苦しいかも。場の色を作れるほどの良い役者が集まっていたのも勝因のひとつかもしれません。

前回の1時間芝居で見えた「どれだけしっかりと詰め込もうか・・・」的な感覚が影を潜めたとたん、芝居が観客の上を滑らずしっかりと内側に入ってきて・・・。倍近くある今回の尺が前回よりも短く感じられるほど。良い劇団に制約をしちゃいけないというか、力のある劇団にはやりたい放題が一番なのかもしれませんね。

なんにしても、一種の充実感のある芝居にめぐり合うことができました。次回公演も楽しみなことです。

(おまけ)

当日はトークショーのおまけつき・・・。それが、もう・・・・。すごいのですよ。トークに名を借りた、新手のコントというか・・・。イケメン男優をゲストに呼んでJACROW所属女優の蒻崎今日子さんがインタビューをするという企画なのですが、インタビューというよりメロメロの蒻崎今日子さんにどういう対応をするかで男優の人柄がわかるという踏み絵のような部分があったりして。本編の独特な緊張感は一発で失せるけれど、もう理屈ぬきにおもしろかった。心にゆとりがあるのなら、JACROWの公演はトークショー付がお勧めでございます。

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コメント

ご来場ありがとうございました!
こんなに繊細に書いていただけたら、
毎日毎日、小さなことを一生懸命考えたり、役者同士で話し合ったり、演出にぶつかっていってみたりというようなことをやってそれでやっとで舞台に乗せて、、、本当にやってよかったと思えました。
ああー・・
しみじみ・・・
ありがとうございました!

投稿: かものはし(蒻) | 2008/03/22 19:40

コメントありがとうございます。

ほんと、面白い芝居を見せていただきました。あの劇場の空気自体が磨かれている感じで・・・。

次回もぜひ拝見させていただきます。もちろんトークショーつきの回を・・。
次回は2人呼んで両手にXXなんていうのはいかがでしょうか・・・。

投稿: りいちろ | 2008/03/22 21:27

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