兵庫県立ピッコロ劇団「ビューティフル サンディ」役者に魅せられて・・・
3月23日、池袋シアターグリーンにて「ビューティフル サンディ」をみました。サードステージプロデュースでの初演が大評判になった三人芝居です。中谷まゆみ さんの処女戯曲、初演の2000年、長野里美、堺雅人、小須田康人のキャスト、板垣恭一の演出も話題になりました。その後、サードステージ版だけではなく、いくつかの劇団で再演されていたような気がします。。
すごく良く出来た戯曲なんですよ。軽妙な前半から登場人物のそれぞれが抱えるものが見事に浮かびあがってくる中盤に見せ場がいっぱいあって、やがて心がほっと暖かくなる終幕にいたる・・・、ウエストエンドのストレートプレイのようなテイストを持った懐の深い芝居なのです。それだけに役者や演出家の力量がもろに試されるような・・・。でも、裏を返せば、力のある役者にとっては才能を示すための絶好の台本ともいえるわけで・・・。
(ここからネタばれがあります。ご留意の上お読みください。)
で、今回の舞台、その役者が本当によかったです。私にとっては初見の役者さんばかりなのですが、なんか今まで彼らの演技を観たことがなくてすごく損をしていたような気になりました。とにかく目を惹いたのが平井久美子。発声や台詞の間が長野里美に近いのは初演の記録などを参考にしたのかもしれませんが、彼女が作り上げる三枝ちひろは、長野里美的よさに加えて暖色のナチュラルさというか気取らない華を持っていて・・・。相手の台詞に乗せられた想いをしっかりと受けて、まっすぐに想いを返していくような姿に、観客の心まで開かれていきます。台詞回しに強さとほんのすこしの甘えが見事に並存していて、知性に裏付けられた奔放さがありながら、その裏にぬくもりがちゃんと残っている。。ひとつ間違えばあつかましい、うざい女になりかねないキャラクターをなんとも居心地のよいオーラで染め替えていく。
幕があがって数分、彼女が登場すると、ビビッドで包容力がある彼女の演技に、観客はあっという間に引き入れられてしまいます。
彼女のペースがしっかりしていることで、戸川秋彦を演じる山田裕の演技にもメリハリが生まれます。。平井演じるちひろに引っ張られる部分と少し神経質な役柄で押そうとする部分の出し入れが舞台のリズムを豊かにしていく。義太夫の三味線が太夫に合わせると芸が死ぬという話を先日のNHKのドキュメンタリーで観たのですが、舞台の二人も同じような感じ。平井と山田の間で、お互いのタイミングを推し量るような間のとりかたが一切ないのに、物語が実に心地よく流れていく。そのグルーブ感が登場人物に対する親近感を観客に運んできます。二人の熟達したやりとりには瞠目するばかりです。
やがて橘 義演じる小笠原浩樹が登場。彼が現れると物語のトーンがゆっくりと変化していきます。明るさから哀しみがうっすらと透けるような、橘の表現が物語に陰影をつけていきます。ちひろと秋彦、さらに裕樹がそれぞれを触媒にしてお互いのことに気づき、自らのことに気づき、信頼を築いていく。平井久美子がふっと頑固に自分を貫くような演技をすると、ちひろの心のコアの部分がシルエットのように浮かび上がってきます。山田裕の押し出すような感情表現は秋彦の心に満たされたやさしさの影を映し出し、一方橘義の明るさに潜む覚めた表情は、彼の不安と想いの気配を柔らかく伝えていきます。
そして、それぞれが心に包み隠していたものがひとつずつ姿を現していく。秋彦の思いをちひろと浩樹が解き明かし、ちひろが抱えていた痛みを秋彦と浩樹がいやし、浩樹の孤独とためらいを秋彦とちひろが埋めていく。まるで輪が不器用に重なっていくように物語が流れ、3人の隠れた心情がエスプレッソコーヒーのように熱く深く抽出されます、そして三人に生まれた信頼関係が舞台を暖かく満たしていく。後半、いくつもの心情が共鳴しあう物語の展開を、役者達はそれぞれのペースを失うことなく流暢に演じきっていきます。豊潤なテンションが舞台からやがて客席までも包み込み、やがて終幕には胸を満たす昂揚が観客を支配していきます。
まあ、細かいことをいえば、舞台としてもっと良くなるのにという部分がないわけではありません。会場に入ったときに地を晒したような色でぼんやり浮かぶ舞台を眺めて、開演前でも、もう少しだけ照明を上げておけば観客のドラマに対する期待が高まるのにと思ったり(先日みたソノラマはその辺のセンスがすごくよかった)。照明のことを言えば幕間の照明の変化にもう少しデリカシーと表情がほしかった気も・・・。また舞台装置にも、もう少し遊びがあれば裕樹などの人柄をもっと表現できたのにとか思ったり・・・・。そういう積み重ねが豊かな表現に満ちた舞台をさらに滑らかな感触にするのではと・・・・。
それと、これは後日談なのですが、この舞台の感想を書き込もうと思ったのにCoRichでの登録が見つからないのです。こんなに良い舞台を見て、その感動を書き込めるはずの場所に記事がないのはちょっと悲しい・・・。まあ、この劇団にとってはAwayの舞台ですからしょうがないといえばしょうがないのかもしれないのですが、劇団の他の舞台はちゃんと検索できたことから、もうちょっと緻密な公演のアピールがあってもよいのではと思ったことでした。
でも、会場のスタッフの対応も気持ちよかったし、なによりも舞台では役者の力ある演技が観客への最大のおもてなし・・・。私事というか個人的には前半いろいろとあった週だったのですが、週末に極上のおもてなしをいただいて、すごく満たされた気持ちでお寺だらけの帰り道をたどることができました。
ほんとうによい日曜日を過ごさせていただきました。
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