ソ・ノ・ラ・マ 「クーロンの法則」揚げた旗がたなびくためのいくつかのこと
3月21日 ソ・ノ・ラ・マの旗揚げ公演「クーロンの法則」を観ました。場所は中目黒ウッディーシアター。公演2日目でしたが超満員の盛況・・・。土日の公演は大変なことになっているのではないでしょうか・・・
この公演は、いまインターネットでやっている「小劇場TV」で知りました。MCをしている空間ゼリーの坪田文さんが脚本を書いているということで、ゲストに出演者を呼んで話をしていたのが、もう一月くらい前でしょうか・・・。で、チラシなどを観ているうちに、ふっと思ったのですよ。坪田さんの脚本に空間ゼリー以外の劇団がのっかるとどんな感じになるのだろうかって・・・。
で、4月の空間ゼリーの公演を楽しみにしている私は、今回が坪田文さんの戯曲ということで、視野を広げたい気持ちがあってチケットを購入。元は十分に取らせていただきました。100%全開という感じではなかったけど、クオリティはとても高い芝居でした。
(ここからネタばれがあります。十分に留意をいただきますようお願いいたします)
結論というか総合評価、面白かったです。物語の導入部分から、常に次の展開への興味がわくようなつくり。だれるところはただの一箇所もありませんでした。
役者達にも勢いがあったし、キャラクターの設定や表現される心の動きも良く伝わってきて・・・・。各シーンともダレたところはひとつもなかったです。若い役者が多いので舞台に勢いがあるし・・・。
坪田さん、登場人物の心情の描き方が厚くてうまいんですよ・・・。小さな言葉で価値観をすっと塗り替えたり、ふっと心をフェイントで見せたり・・・。サッカーでいうと2列目からのシュートみたいな・・・。また、無茶をしていないから、観客は安心して寄りかかれる。感心したのは女性達が相手の男性を拒絶するときの彼女達の感情、ほんとうに無理がない。貝のように心を閉ざす心理や許しが生まれるトリガーの部分の説得力を見ていて、この人の才能を再度目の当たりにしたような気がしました。そもそも物語を動かすまでの持っていき方から秀逸で・・・。
ただ、一つ一つのシーンは光っているのですが、全体の物語構成となると、なにか落ち着かないものがある。物語全体の表現のバランスがあまり良くない感じがするのです。たとえば、半暗転ごとに一ヶ月が流れたりするのですが、そこがうまく舞台から伝わってこない。台詞でダイレクトに時間の経過が告げられたりしていても、いかんせん役者達の演技からその重さがきちんと伝わってこないのです。あるシーンから次のシーンまでが一ヶ月といわれても観客側に実感が沸かない。役者個人、あるいは役者同士のからみの中で、一ヶ月の変化が真摯に意識されている演技がやや欠けているような・・・。その時間感覚がしっかりしていないと坪田脚本の終盤が生きてこない。主人公以外すべての人間を退出させるという思いつきは悪くはないのですが、前の幕までで必然の積み重ねしてきたいろんなことには、熟するまでの時間感覚が必要で、その長さというか積み重ねた時間が舞台と客席で共有されていないと、最後のシーンで登場人物たちが舞台から離れていくときの必然が実感として観客に伝わってこないのです。
それぞれのシーンを観ている限り、役者達にはそれぞれの役を満たして余りあるほどの技量があるのだから、物語全体のボリュームを伝えるような演技も彼らにはきっとできる気がするのですが・・・。なんか惜しい気がしたことでした。
そうは言っても魅力的なユニットです。作家は言わずもがな、演出の鬼頭理三さんもシリアスなストーりーに沈まないある種の軽さを作り上げて、結果として物語の目鼻がくっきりとした仕上がりになっていて。シーン替わりのつなぎ方も手馴れていて、観客の関心をうまく引っ張っていたし。主役の二人源・山口翔悟については心情がけれんなく伝わってくる演技、しかもこの役者達だから伝わってくるであろう匂いがあって・・・。多少力技での演技もあったけれど、何かを演じる熱意って観るものを惹き付ける根源的な力なのだと思います。
客演陣も好演でした。男優陣では黒田耕平の作る空気がまず目を惹きました。物語の色をうまく作っている感じ。ルーズさと知的さの混在が実に旨く演じられていて。手打隆盛の抑えた演技も、ゆったり加減が絶妙で好感が持てました。成松慶彦の弱さと芯の想いの表現も厚みがあってよかったと思います。ヒール役の三枝俊博の説得力・石塚良博の器用さも舞台にしっかりと貢献していました。
女優陣では松本美奈子の携帯を壊すに至る心情の表し方が実に秀逸。小さい演技の変化で確実に心の固まり方を表していく・・・。柔軟さと繊細さが同居した見事な芝居だったと思います。山口オンには実在感がありました。ある種の一途さに説得力があって。彼女の存在が物語自体の実存間を大きく育てていったように思います。桜井ふみの豪胆な演技もよかったです。見ていて妙な安心感があるのですよ。ああいう太っ腹な演技ができるってまちがいなく才能ですよね・・・。
ソ・ノ・ラ・マの揚げた旗が大きくなびくまでにはいくつかのことが必要なのだろうし、風も吹かなければいけないのでしょうけれど、でもそれをこなしていけるだけの根本的な力をこのユニットには感じることができる・・・。このユニットを構成する人間の才能がそのまま力になれば、次の回、さらに次の回と観客を思いっきり満たしてくれる何かをつくりだしてくれるような気がするのです。
次回がすごくたのしみです。
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