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「ガールフレンズ」ユーミンの世界観を借景に・・・

実はあきらめていたんです。チケットとれなそうだし、けっこう良いお値段だし・・・。しかし、イープラスからのメールでプライスダウンチケットが出ることがわかって飛びつきました。ホイチョイの馬場さんが作られたというのも魅力的だし、もちろんユーミンの歌がたくさん聴けるのも魅力的。堀内敬子さんの歌唱力が楽しめるのもたのしみ・・・。当日引換券を即予約。結構良い席でそれもびっくり・・。

(ここからネタバレがあります。十分ご留意をお願いいたします)

このミュージカル、台詞がまったくありません。基本的には二人がユーミンの歌を重ねていくなかで物語が展開していきます。そのなかで仕草やダンスなどが織り込まれて物語のディテールが形作られていく。

まあ、ダンスミュージカルというジャンルはあるし、ビリー・ジョエルの曲だけをつないだりアバの曲だけを使って物語を組み立てていくミュージカルが大ヒットしたりもしているので、できない話ではないのだろうなとは思っていました。でも、ここまでストーリがしっかりと語られ、登場人物の想いが舞台から生々しくやってくるとは思いませんでした。私自身がユーミンの曲をずっと聴き続けてきた世代だし、いくつかの曲にはアクチュアルな実体験が結びついていたりもするのですが、それとは別のレベルの感動がこのミュージカルにはしっかりと存在しているのです。

堀内敬子さん島谷ひとみさの声や歌唱法が大きく違うのも勝因のひとつかもしれません。島谷ひとみさんのほうがどちらかというとユーミンの歌唱法に近いかな・・・。彼女の歌い方や雰囲気はユーミンの歌詞のもつ匂いや雰囲気を十分に発散させます。ちょっと蓮っ葉にさえ思える語尾がすこしだけかすれる感じに、時代が見事にからまっていき、時代を颯爽と駆け抜けていく女性の姿が浮き上がります。

一方の堀内敬子さんは、本当に丁寧に歌い上げる感じの歌唱、ミュージカル女優としての力を十二分に発揮します。そして、彼女の歌唱はユーミンの歌にこめられた思いを美しいメロディーに昇華させていく感じ・・・。抜群に安定したその歌声はしっかりと主人公の想いとユーミンのメロディーを重ね合わせて、もうひとりの女性の心情をしっかりと浮き彫りにしていきます。ユーミンの曲を聴いていて女性が持つある種の不器用さまでを感じるのです。そのメロディーと詞に織り込まれた女性の心の想いが、彼女の美しい歌声で洗い出されるように舞台を包み込んでいきます

ユーミンの歌に潜むスタイリッシュな部分と心の奥の心情のような部分、二つの要素が二つの声でそれぞれの物語を織り上げていく・・・。最初は歌で物語を重ねていたのがいつしか物語を歌が彩るように変わって・・・。そのころには観客はすっかりと物語の虜になっている・・・。

ダンサーたちや共演の男優たちの仕草も舞台を豊かに広げ、物語の行く末が歌に浸潤しながら膨らんでいく感じ・・。まばゆいような学生時代から30台にいたる二人の女性の人生、ユーミンの歌に織り込まれた風景や物語の豊潤さが、二人の歌や創意に富んだを共演者たちの演技、さらには背景のスクリーンに映される画像でどんどんリアリティをもっていく。楽しいばかりの物語ではないけれど、その時々の登場人物の心情がユーミンの色に染まりゆっくりと観客の心を開いていく。、

終盤、堀内敬子が流した涙が観客の心情と見事に重なります。ユーミンの歌の世界に封じられていた想いと物語の流れでやってきた想い、そして歌い手の気持ちがまるで三原色が重なるようにすっとひとつの透明感を作り上げる・・・。その透明感に観客は柔らかく息を止め、自分の生きている、あるいは生きた時間やそこでともにすごした人のことに思いをはせるのです。

背景のスクリーンに映し出される歌詞のプロンプトも効果的だし、5pcのバンドの演奏にもグルーブ感があり・・・。ダンサーたちにも不安定さがまったくなく、瞠目するという感じではないけれど心地よい切れがあって、振り付けも派手さはないけれど小粋でおしゃれ・・・。

曲も「ロッジで待つクリスマス」「天気雨」「中央フリーウェイ」「冷たい雨」悲しいほどお天気」「街角のペシミスト」「青いエアメイル」「やさしさに包まれたなら」「土曜日は大キライ星空の誘惑」などなど・・・。ひとつずつが懐かしいものばかりなのですが、物語のなかではそれぞれの曲が持っていたニュアンスがいまさらながらにとても新鮮に感じたりもして・・・。

力技で大向こうをうならせるような作品ではないけれど、自分のサイズにぴったりのミュージカルに出会ったような気がしたことでした。

地方公演がまだ残っているようですが、もしごらんになるチャンスがあれば、是非にお勧めの一品です。

一応、出演者を・・・、念のため出演者を(Wキャストは私が見たバージョン、裏(?)バージョンは鈴木蘭々さんと池田有希子が演じていらっしゃるそうです)

堀内敬子・島谷ひとみ・加持将樹・中村昌也・大橋明日香・植木理奈子・吉岡麻由子・谷古宇千尋

[バンド}大高清美(Kb) 大隅一菜(Kb)yoko(Dr)菊池聖美(Bs)長井ちえ(Gu)

(おまけ)

さて、私が見た回にはトークショーがありまして・・・・。これも結構楽しませていただきました。何を?ってもちろん生「堀内敬子」さんを・・・

舞台の彼女を見て「こけらおとし」での三谷幸喜さんによる堀内評、あるいは「ほれゆけ、スター大作戦」での生瀬勝久の堀内評・・・、その意味がなんとなくわかったような気がします。たぶん、彼女ってすごく純粋な面を持っていて、どこかで思ったことや感情がそのまま抵抗もひっかかりもなくでてしまうタイプなのでしょうね・・・・。4人ステージにあがってのトークショーだったのですが、司会者と他のメンバーのやり取りに、いろいろと突込みをいれたり、ちょっとびっくりするような発言がすっと出たり・・・。

でも、そういう部分があるから、彼女の舞台での感情の変化には力みがなく、そのまますっと観客に浸潤してしまうし、彼女の涙と観客の想いが驚くほど見事に一致するのだろうと思ったことでした。

彼女の天性の一端を見せて頂くことのできた貴重なトークショーだったと思います。

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