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「サバンナの掟」柿喰う客 ドミノが倒れるためのまっとうな仕組み

1月5日、シアタートラムにて「サバンナの掟」(柿食う客)を見てきました。「柿食う客」は初見。過去の公演評などもかんばしいものが多く、見に行きたい劇団のひとつだったのですが、たまたま、会員になっている世田谷パブリックシアターからの案内でシアタートラムでの上演があるとのことで、即決めでチケットを取りました。

(ここからはネタばれがあります。公演が終わっているとはいえ、ご了承の上でお読みいただきますようお願いいたします)

物語はとある地方都市、女子高生自らが管理売春を行い、警察の刑事がそれを追いかけようとするが上司が良い顔をしない・・・。捜査を提案している刑事は銃を向けられていることに快楽を感じるという性格、。そんな中管理売春を行っている女子高生たちに二つの事件が起こります

まず、高校生のひとりが客の一人に陰部を噛まれる・・・。女子高生の仲間が追いかけるがつかまらない。そして、もうひとり、女子高生が行方不明になってしまう。日本初の女性総理大臣は同性愛者で、お忍びでこの地方都市にやってきた。で、側近が売春組織に女子高生を斡旋してもらい総理大臣にあてがったのですが、その秘密を隠すために女子高生を射殺してしまったのです。

一方で地方都市の市長は管理売春などで治安が乱れていることを気に病んでいます。いつ総理大臣に叱咤され、自分の地位を終われるかが不安でならない・・・。

その状況の中で、総理大臣は側近に次の女性を用意するように頼み、一方で総理大臣の暗殺をもくろむ闇組織が登場する。彼らは女子高生の売春組織を取り込んで総理大臣を殺させようとします。10億円が用意されていて、その出所は市長・・・、さらにその組織から行方不明の女子高生が総理大臣に殺されたことを知らされて・・・・。

組織間の利害はどんどん絡まり複雑になっていき、やがて総理大臣の泊まるホテルで、売春組織の女子高生たち、警察、総理のスタッフ、秘密組織、市長スタッフを巻き込んでの殺戮合戦へと発展します。

しかも組織の中も一枚岩ではない・・・。総理大臣と秘書の間にも対立はあるし、総理大臣の人身御供にされてしまう秘書の妻との利害関係があるし、警察の中もそう・・・。女子高生の中も全員仲良し倶楽部というわけではない・・・。

これだけの噺に出演者はなんと30人、果たして舞台として成り立つのか・・・・。

しかし、見ていて登場人物がてんこもりでも芝居に間延び感はまったくなかったし、登場人物が多いことや登場人物が次々と死んでいくことへの違和感やストレスはまったくありませんでした。

これってきっと、さまざまなキャラクターを並べて倒していくドミノ倒しなのかも・・・。倒れていくドミノの配置が見事な上に、連鎖に関係することだけを演じ切る役者のエッジがしっかりとたっているから、観客は思わず息を呑んでその動きに見とれてしまう。

作・演出の中屋敷法仁は物語自体のアウトラインの見せ方もうまいし、一方で時間の流れを切らないシーンのつなぎ方は観客側のテンションにまで加速度をつけていきます。30人の役者が殺したり殺されたりする理由もしくは因果が、細かく設定されていて、観客はあれよあれよという感じで舞台の密度に引きずり込まれていく・・・。枠にとらわれることなく、猥雑でもあり、独善的であったりシュールですらあるキャラクターを、抜群の切れとともに、場合によってはジェンダーの垣根をを超えて演じきる役者たちの出来も実によくて・・・。床を踏み鳴らす音、切れのある動作、一点に絞って伝えられる心情・・・。全身で表現される雰囲気、ストーリーをつなぐのに過不足のない個人的世界の構築。

強いインパクトで印象に残るものだけでも、村上誠基演じる女子高生の不思議に深さを感じさせる母性、玉置玲央演じる不妊女子高生の母性の代替行為としての寄付に対する執着、刑事を演じる堀越涼の凶器を向けられたい願望のあやうさ、女子中学生を演じる伊佐美由紀のここ一番でバンツをおろし続けるこだわり、石黒淳二演じる市長の明るい保身などなど・・・。

すこし複雑なところでは、主人公的な女子高生を演じる深谷由梨香の犯人への心情、レズビアンの総理大臣を演じる岡田あがさの傲慢と欲望が香り立つようなたたずまい、女子高生を演じる七味まゆ味の殺された友人を思う心情・・・、

他の役者たちにもはずれがなく、何かを演じるように課せられた彼らのさまざまな表現が比較的広い舞台のあちらこちらから物語に突き刺さり、舞台の上で次々とつながりをもって機能していきます。まっすぐスピードで倒れるドミノもあれば、倒れる瞬間に光を放ったり、ひとつのドミノの流れがさらにいくつものの流れを作ったり.。心情が伝えながらゆっくりと倒れる仕掛けもののドミノがあったり、霊界というドミノ倒しの連鎖からみると外側の仕掛けまでが登場します。

そして、気がついたとき、舞台一面に見事に倒れたドミノのなかに、物語のラインがしっかりと浮かび上がっている・・・。ドミノは物語の因果を描き、終着駅にしっかりとたどり着くのです。

アフタートークで中屋敷氏は「100名の出演者でこの芝居をやりたい」と真顔で言っていましたが、彼にとっては並べるドミノを増やしたいというだけの話なのかもしれません。物語を背負ったドミノをさらに並べていけば、100名の出演者も夢ではないかも・・・。少なくともこの舞台の構築を見るだけで彼の能力は十分に伝わってきます。

見終わって、劇場のロビーを歩くとき、ほんのすこし背徳的だけれどすごく新鮮な悦楽が私の心を捕らえていました。

初見の私には、ここのドミノがいつも倒れるかどうかはまだ断言できないのですが、「柿喰う客」ちょっと目の離せない劇団です。

次回は6月に王子小劇場とのこと・・・・。あの小さな劇場で中屋敷がどんな世界をこうちくするのか、すでにかなり興味を感じております。

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