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それは良質なもみの木ように・・・ JACROW 「Dog Eat Dog」

開花の華、新宿村の市という約1ヶ月にわたるG-UPが企画した小劇場系の「演劇大会?」がありまして、12月7日夜に参加劇団のひとつJACROWの「Dog Eat Dog」を観てきました。

2つの劇団が1時間の芝居を毎日1回(週末は2回)同じ場所で交互に行うというこの企画、作り手にとっては制約が多いのだと思います。舞台装置の問題、時間の問題、さらには運営面も含めてかなりハードな印象。とはいうものの、制約が工夫を生み、工夫がさらなる創造を生むというようなよいスパイラルが出てくれば、それは劇団にとっても観客にとっても大きな財産を生むことになるわけで、制約が常にわるいというわけでもないのかもしれません。ただ、育ち盛り劇団大集合のような今回の企画とはいえ、制約を逆手にとって彼らはますます育っていくのか。あるいは、制約に負けて崩れていくのか・・・。さまざまな面面においての参加劇団の資質がもろに問われる企画なのだとは思います。

で、今回、JACROWについての結論から言うと、制約をほぼクリアしておつりがたっぷり・・・。最初の比較的ゆるい導入部分からここまで引きずり込まれるとは思わず、ちょっとした手品を見ているような気分にすらなりました。

(ここからネタバレします。芝居の核心に触れる部分があるかもしれません。ご留意の上お読みください。)

実はこの物語、1時間のドラマとしては人間関係や登場人物間の利害関係がかなり複雑で・・・。人間関係については事前に配られたものの中に図でしっかりと説明はされているのですが、その図とて実感として理解できるのは芝居を見終わった後の話。しかし、舞台が理解しずらいのかといえばそんなことはなく、舞台が進む中で観客にはきちんと登場人物の関係が整理されてみえてくるのです。必要な部分がひとつずつ観客のなかに積み上げられていく感じ・・・・。それもあざとい表現で関係が示されるのでなく、物語の流れのなかで観客が呼吸をして無意識に酸素をとりこむように理解をしていけるやりかた・・・。物語の骨と筋肉がしっかりと描かれている一方で贅肉がぐっとと絞り込まれていることの成果なのでしょうね・・・。その絞り方も観客に負荷をかけないというか、舞台全体をぎすぎすさせないで登場人物の感情や想いのぬくもりを残したままで絞り込まれている感じ・・・。無駄を絞る一方で役者の感情表現だけで物語の腱にあたる部分が補強されてさえいる・・・。作・演出の中村暢明が持つセンスが光ります。物語の輪郭がしっかりしているから後半で登場人物たちが物語を動かし始めてもテンションのあがり方にくずれや不自然さがありません。観客がそのまま乗っていける。最後に近いの部分で映画の有名なシーンをもろ借景につかうのですが、それが逃げやデフォルメではなく映画と同様の必然と感じられる強さがこの芝居にはある・・・・。

まあ、パーフェクトというわけではなく、少なくとも私が見た回ではもっと昇華した舞台になりえるのに・・・・いう部分もありました。意外と目に付いたのが、いろんなタイミングのとり方や表現の仕方の不安定さ・・・。たとえば二つの空間を同時にひとつの舞台空間に定義して、片方の時間をとめてもう片方を演ずる部分、手法自体はしっかりと機能しているのですが、空間やシーンを移すときに音やライトがイマイチびしっと決まらない感じ・・・。上方落語だと見台を小拍子で小気味よくたたくタイミングなのですが、ある部分は大げさで音もなんかイメージと違うし、ある部分は大仰だったりここは小さくでも音があるとわかりやすいなと思う部分でなかったり・・。素人がこういうことを言うのも何なのですが表現者の意図と観客の感覚がどうもずれている感じで・・・。落語と違って場をみながらその場で修正というわけにもいかないのでしょうが、もうちょっとやり方が・・・という感じもしました。あと、最後に芝居のタイトルをコールして暗転終幕になるのですが、コールの部分はもっと派手に決めてもよいような・・・。これだけの芝居をやられて、観客は強く満たされているわけですから、、もうちょっとけれんを入れて、会場全体の時間をフリーズさせるくらいの強いコールがあってもよいのではとおもうのですが・・・。

でも、それらのことを差しひいても、観客をひきつけて離さないだけの魅力というか、芯に力を持った芝居でありました。芝居っていうのはクリスマスツリーみたいなところがあって・・・。オーナメントの電飾がたまたま2つ3つうまく灯らなくても、もみの木がきちんとしていれば、その美しさはちゃんとつたわってくるのです。

役者のこと、角田ルミは人物が持つキャラクターの軽さを勢いをコントロールしながらまっすぐに表現していました。その中に見える欲(田園調布夫人とか社長夫人とかいうイメージへの憧れ)の直情的な軽さがシンプルに観客につたわってきました。このシンプルさの表現が、後述の菊池未来が心に抱えるものの重さを何気に浮かび上がらせていきます。國重直也は逆に不純物がしっかり内包されている演技で、役員としての会社に尽くす風を演じる顔と私欲にかられて企てを進める顔の切り替えに無理がなく、したたかさも伝わってきて好演、杉木隆幸も押しの強さとある種小心な部分をもつキャラクターを、ゆとりを持って手のひらにのせて演技をしていました。ただ、菊池・杉木は後半にアカペラでの歌があって、物語の終盤を一気に盛り上げていくのですが、歌の技術はそれなりにしっかりしているものの、歌が演技の背景になったときの盛り上げ方のタイミングがちょっとずれる部分があってそこだけが残念でした。

関野健介には気持ちを吐露する場面での言葉にまっすぐさがあり、言葉の内側に気持ちが細かく織り込まれていて、最後のドンデン返しにある種の必然を与える演技でした。うまくいえないのですが、ここ一番で振れない気持ちの表現がそのまま観客を捕らえていたと思います。今里真も気持ちを内に入れながら、柔らかい言葉で押さえ込まれた強い感情を表現するという演技を的確にこなしていました。外面の慇懃一歩手前の丁寧さと内側の感情のギャップを微妙な表情や言葉の強さで見事に操っていて、観客にとっても見ごたえがある演技でした。

菊池未来は目に力のある女優で、意思の強さを寡黙さで表現できる人。抱える思いの出し入れがきちんとできているので終盤の展開にも浮くようなところがなく、観客の思いを掴んだまま見事に場をはけてみせました。豪胆な部分と繊細な部分を同居させて演技ができる器用さもあって彼女の役に存在感を与えていました。

最後に蒻崎今日子です。彼女は今回の出演者のなかでも演技の基礎体力が一番強い感じ。場の支配力に長けていて、舞台の色を作ったりあるいは雰囲気をすっと変えることができる力を持ち合わせている一方で、舞台の空気を安定させたまま密度を上げたり下げたりもできる・・・。彼女から発せられるある種の力感が舞台のテンションをきちんと維持していたように感じました。台詞や動作の奥行きが深いというか、こういう役者が舞台にいると、観客は舞台に身をゆだねやすい・・・・。中村の世界観が観客に伝わっていく際、観客のゲートを開く役目を彼女は果たしていたような気がします。

JACROW、この雰囲気で、今回のような制約をはずしたもう少し尺のある芝居をみたくなりました。けっこうはまりそう・・・。またひとつ、通いたくなる魅力をもったよい劇団を見つけてしまいました。

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コメント

ご来場、本当にありがとうございました。
しかもご覧いただいてすぐにレビューをアップしてくださって、、、コメントの書き込み遅くなりましたが、私もすぐに読ませて頂き、とてもはげみになりました。
今後ともよろしくお願い致します。

いや、、、
よろしくし続けていただけるように、頑張りますね!

感謝の気持ちを込めて!

投稿: かものはし | 2007/12/11 04:33

かものはし様

お書き込みありがとうございす。
いやぁ、ほんと、時間を忘れて楽しんだ1時間でした。けっこうわくわく感もあるお芝居で堪能いたしました。

次回公演もぜひ拝見いたしたく・・・・。

それとは別に貴ブログも楽しいので、また時々遊びに参りたく、今後ともよろしくお願いいたします

りいちろ

投稿: りいちろ | 2007/12/12 00:08

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