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眩しさを目を開いて見つめてしまうような・・・  岡田あがさ 「ワタシガタリ」

空間ゼリーヒトリガタリシリーズVol.1、岡田あがさ「ワタシガタリ」を観て来ました。前回の空間ゼリー公演でも非常にインパクトのある演技を見せた女優の一人芝居ということで、閉塞感がしっかりとある「pit 北/区域」は満員となり、彼女の舞台を鑑賞するには絶好の環境となりました。

(ここからはネタばれがあります。十分ご留意の上お読みください)

コートを着て、鞄を持ち舞台に上がる彼女、舞台上には雑多なものが散らかっていて、中央には長方形の青いマットが敷かれていて・・・。最初はいろんなものと戯れていた彼女が、ゆっくりと自分のことを語り始めます。名前も忘れただ全身が傷だらけというだけの彼女がゆっくりと自分を探し始めます。

それは、抽象的な表現であり、しかしながら歩みを進める中で具象化された表現にも彩られて・・・。、まるでひとつずつ箱を開けるように語られていく不確かな記憶の断片に、彼女から発する白色の光は強くやわらかく揺らいでいきます。父から離れていった母を思う気持ち、父との対立とその裏腹にある父を求める気持ち、恋人への思い・・・。鞄に詰められていたのは不器用につながれたいくつものの携帯電話、それらのいずれもが彼女のアイデンティティにはつながらず、やがてやってくる寂寥と欲望、切り裂くような音とともにやってくるバッシング・・・。それでも白色の光は衰えるどころか、まるで照明の笠が外れたかのようにその鋭さを増していくのです。しかもその眩さから目が離せない・・・。

約1時間の舞台でしたが、観ていて時間はまったく感じず、しかも終わって拍手をするときにはかなり自らが消耗しているのがわかりました。彼女の舞台での求心力に心が奪われきっていたのだと思います。

そりゃ、一人芝居ではそれほどめずらしくないト書きを語るような部分に一瞬彼女のためらいが感じられて、物語自体の視点がどこかぼやけてしまうように思えたり、彼女の中での感情の連鎖がふっと方向を見失うような(もしくは観客をぶっちぎってしまう)部分がちょこっとあったりはしましたが、それも彼女の根源的な表現への熱情のなせる業と理解できる範疇のことでした。もっと根源的なこととしては彼女自身のもつオーラのようなものが強すぎて、一人芝居に徹している部分ではそのまばゆさに物語がかすむような部分もありましたが、これも外部からの肉声や効果音(タンバリンを強打する音、非常にインパクトがあった)によって後半一気に解消されました。

ほんと、密度が高くしっかりと熱を内包した、力を感じる舞台でありました。

そうそう、アフタートークでの深寅芥(演出)、坪田文(空間ゼリー主宰)、岡田あがさ(女優)によるいろんなお話もとても興味深かったです。ネタばれを気にする向きもあったので内容は書きませんが、作り手側のロジックがいろいろと開示されて・・・・。今回の公演が深寅氏の演出がみごとに実を結んだ作品であることがよくわかりました。

ただ、(ここからは余談ですが)ふっと思ったこと。前回空間ゼリーの公演などに比べても、今回の岡田あがさは本当に自由に演じている感じで、パワーが一点を切り裂くというよりは全体を包み込むような演技でした。で、今度は逆にもしこの芝居をタイトにというか自由を制限された状態で彼女が演じるとどのようになるのかなって・・・。

たとえば、極端な話、ク・ナウカのメソッドで、ムーバーとしてこの物語を演じたら・・・。彼女が発する力は失われていくのでしょうか・・・。あるいは制約をバネにより強い表現が彼女から現出するのでしょうか・・・・。

深寅氏にはしかられてしまいそうな発想ですが、終演から少し時間がたって、彼女がベースに持つ可能性について、観る側のロジックで、ふっといろいろ思いをはせてしまったことでした。こういう発想は岡田あがさパフォーマンスや深寅演出に圧倒され尽くしたからこそ、精神的代償行為として終演後しばらくしてから浮かんでくるのかもしれませんが・・・。

余談ついでにもうひとつ、今回の公演、どちらかというと狭いスペースではあったのですが、観客の誘導等スタッフの対応がとてもよかったです。こういう部分も劇団の力なのだろうなと感心したことでした。

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