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アロッタファジャイナ 「クリスマス、愛の演劇祭」は夏よりいっぱい進化して 

12月16日、アロッタファジャイナ番外公演「クリスマス、愛の演劇祭」を観て来ました。夏の番外公演と同じ形式で、場所も同じ渋谷Le Deco(フロアだけちがっていたような・・・)。劇団内がいくつかのグループに別れ、一部は外部チームも参加して、1時間程度の芝居を披露していくという趣向。ひとつの芝居ごとのチケットのほかに1DAYチケットというのもあってこれが超お得。その日上演される演目すべてが含まれたセット料金になっているのです。

夏(9月)版で味をしめた私は、迷わずに1Dayチケットを予約いたしまして・・・。楽日でしたので他の日より演目は一つ少なかったのですが、それでも5つのお芝居を堪能することができました。

内容的には、夏に比べて、同じ演出家やチームでもクオリティが明らかに高くなっている・・・・。もっとも、夏の公演でも十分に高いクオリティをもったお芝居が多かったので「一段と粒がそろった感じ」というのが正しい表現なのでしょうね。

長時間の観劇ではありましたが、スタッフワークも夏に比べてもたつきがなく、「長さを感じないけど具たくさん」という観客にはとても美味な催しでありました。

せっかくですから、夏の記事と同様に、個々の芝居の感想などを・・・

(公演は終了していますがネタばれがありますので、読み進まれる場合にはご留意ください)

青木姉組 「リスボン」

作・演出・出演 青木ナナ 

出演 吉田佳代 綾瀬マルタ 柏木サナ 赤坂卓郎

シンプルだけれど、ちょっと小粋なエンターティメント。

出版会社の編集者、自分が一押しにした作家に締め切り間際に逃亡されてしまいます。行き先はなんとリスボン。あまりの多忙に恋人との関係も危うくなりがちなのですが、そんなことはお構いなし、たまったマイレージで逃亡先に原稿をいって来いと上司に命令されて、一路リスボンへ。リスボンについたのは良いけれど、右も左もわからずじまい・・・・。さまよっているうちに、携帯電話のむこうの恋人とは絶縁状態に陥って・・・。それでもようやく捕まえた作家に原稿を書かせて、でも最後の最後に逃げられて・・・。残されたメッセージはクリスマスイブに地下鉄の原宿駅の出口で完成原稿を渡すということ・・・。観光をしている暇もなくあわてて日本に帰る彼・・・。こんどこそと原稿を取りに行くとそこには素敵なサプライズが・・。

音楽の使い方やダンスの振り付けのセンスがお世辞抜きに抜群。作・演出の青木ナナには天からの授かりものがあるのでしょうね・・・。ダンス自体が息を呑むようなものではないのですが、使い方というか見せ方がとても上手。一番感心したのは、リスボンの裏町の風景をダンスで見事に表現して見せた部分。舞台装置もさしてない空間が3枚のTシャツを使った振り付けで見事に南欧の裏通りに変わってしまった。暖かい日差しや街の香りまで漂ってきそう。その風景の中で主人公が旅に疲れたエトランゼに見えるのです。まるで自分もリスボンにつれてこられてその風景を目撃したような気分になる・・・。

主人公と南欧までのタフな旅をしたような感覚を持たされているから、最後の結末が観客にとってはべたな感じにならずとてもおしゃれなものに・・・。役者たちにも舞台の雰囲気をビビッドにするような勢いとしっかりと場を作りあげる落ち着きがあって・・・。べたな言い方ですが、ラストシーンは観ていて心がやわらかく浮き立つような・・・・。

素敵な小品でした。そう、マンハッタンの小さな劇場でOff Offでの素敵な芝居を見ているような気持ちになりました。

藤沢組 「一日の必要量の「1/3のコント(ふゆ)」

作・演出・出演 藤澤よしはる

出演 大石綾子 山本律魔 突風ビュービュー[シュウ、マッツ、ミツマサ、リスキー・ザ・ロック]

男の心を持った女の子の物語という発想は決して悪くなかったと思います。藤澤作品として、夏の公演と比べると、物語性が高まったのでわかりやすかったし・・・。間のとり具合も夏に比べたらかなり改善されていたし、天丼的なギャグもためらいなく演じることで破壊力も生まれていたと思います。キャラクターの設定もきちんとしていたので観客にも余計な負荷がなかったし。大石さんの体の張り方もなかなかのもので、思わず笑ってしまう場面もひとつや二つではなかったです。

でも、この脚本なら、さらにもっともっと巻き込むような勢いがほしいところ。微妙なタイミングなのですが、まだ観客がびしっと引っ張られきれていないもどかしさを感じているような部分があって、それが全体の流れを少し淀ませていたように思います。。逆にしつこくてもいいから「ここはいっとかな・・・」みたいな部分にいまひとつの突込みがなかったり・・・。まだ良くなる余地たくさんある気がしました。

とはいうものの、空風びゅーびゅーのライブを挿入したのが大成功。物語に立体感が出来た感じ。ボーカルの方の衣装にも唖然としましたが(なんと武者鎧)、そのボーカルのパワーにはさらに度肝を抜かれました。彼はいいですね!!!声質が耳になじむし、ちょっとPAのボリュームが低くても関係ないような声量がある。生のドラムの音に生声が負けていませんでしたから・・・。また、曲がいいのですよ・・・。メンバーまるごと芝居に取り込まれながら歌った3曲は芝居にしっかりと色をつけていました。

新津組 「一回裏無死満塁の愛」

作・演出・出演 西島巧輔

出演 新津勇樹 森田ゆき

夏の公演から一番大きく進化したのはたぶんこのチームだと思います。女性がひとり加入したことで二人芝居の箍が外れて、西島脚本の幅が一気に広がった感じ。センスは感じても演じる際の二人芝居の段取りに足をひっぱられる姿が目についた夏の舞台にくらべて、今回の西島・新津はパワーが段取りでなく観客にしっかりと向かっている感じで・・・。

ストーリー性も高まり、ひとつのパンチラインが次のパンチラインにつながって相乗的に観客をひっくり返していくようなすごくよいリズムが出来ていたように思います。プロットの組み方も実に秀逸だったのですが、ひとつずつのシーンの完成度の高さにまず感服、グルーブ感のあるギャグの応酬にわくわくするような部分がたくさんありました。まだいくかというようなネタの深り下げ方にも感服。

3人の出演者全体でも、男どおしでも、森田とだれかの二人でもまったくクオリティが落ちずねたが演じられ積み上げられていくのもよかったです。ベタなずっこけから考え落ちまでいくつもの異なる種類のねたが、まるで上質のカクテルを作っていくように一つに纏め上げられていく感じ・・・。

森田ゆきのプロフィール等についてはパンフにも書いていないのですが、コメディエンヌとしての彼女のセンスには瞠目するばかり。的確な間、程よい強弱、押すところは押すし引くところはきちんと引くそのメリハリ付けの巧みさ。西島・新津が森田に気を使わず演技が出来ている感じ・・・。それどころか二人の力を煽っているような感じさえして・・・。

全編おもしろかったですが、特に、森田が野球部を振る場面や工場の火事をお弁当を準備して見物にいくというちょっとブラックな設定のあたり、さらには一番最後の高校のときに振られた憧れの女性に会いに行く最後のくだりは本当に私のつぼで・・・・。たっぷり楽しませていただきました。

野木組 「青い雪、カナズチで叩いたら割れてしまった夜空

作・演出 野木太郎

出演 滝野裕美、福島千紘 松浦明日香 中島康善 倉持翔

夏の公演でも非常に透明感のある舞台空間を構築した野木太郎作・演出の舞台、今回は季節柄か雪のイメージを使ってちょっと硬質なファンタジーの世界を作り上げました。

最初に人形が話す三つのフレーズ、それがそのまま物語のキーワードとなっておもちゃ工房の4人家族の顛末が語られていきます。かくれんぼの呼び声、歌、子供の領分の話、大人の話、それらがゆったりとしたアラベスクのように並べられていき、過去の物語、そして青い雪とはなにかがゆっくりと解き明かされていきます。

夏の時にも感じたのですが、野木演出の舞台には透明感を維持するテンションがあって、そのテンションが観客の心を舞台に釘付けにしていくような魔力を持っています。今回は夏に比べて物語の輪郭もはっきりしていて、その分テンションの強さが観るものをより明るい光でつなぎとめる感じ・・・。夏の微粒子が拡散するような舞台の印象から、今回は凛とした何かを感じさせる印象に代わってはいましたが、その透明感にはまったく翳りがありませんでした。

特に印象に残ったこととしては滝野裕美の人形としての演技の美しさ、素の部分の演技では深く感情をたたえているのですが、人形のパートになるとすっと水が砂にしみこむように感情が消えていくのです。福島千紘の澄んだ歌声も印象にのこりました。舞台のもやもやをどこか浄化するような・・・。あと姉妹間の戯れやちょっとした意地悪な表情がとても生き生きしていて物語の幅を広げていました。

夫婦役の松浦明日香と中島康善の会話も落ち着きがあり、同時に実存感がありました。加えて姉妹喧嘩の作りこみがしっかりしているので、家族の日常と雪の日に姉妹に起こった出来事に十分な落差があり、観客は非日常のなかで日ごろの姿ではしゃぐ姉妹の顛末に違和感なく吸い寄せられます。倉持翔の抑制された演技が物語のテンションをさらに高める。ブルー系のライトに照らされた終盤の美しいシーンも心にゆっくりしみこんで、終わった後ふっと深く息をつぎたくなるような作品でありました。

松枝組 「スノー・グレーズ」

作・演出 松枝佳紀

出演 安川結花 井川千尋 ナカヤマミチコ 原田健二 峯尾晶

大人の愛を描いた作品・・・、いくつものアスペクトから観客の心を揺さぶる作品に仕上がっていました。男女間の支配と非支配、耽美主義的な恋愛感の行き着く先、本当の信頼へのトライアル・・。心の一番奥のドアにそっと鍵を差してまわす時の隠微な軋み・・・。作者の心の内側をふっとあからさまに見てしまったような、とまどい・・・。そして・・・。

それは、高貴な主が住む館の居間で暖炉の火を見つめながら物語を聞いているような時間でした。語り部の男たちは感情を内に織り込んで理性で言葉を発し、女たちは感情を抑えることなく言葉に託す感じ。

登場する二人の男性、一人は新進気鋭の芸術家。もうひとりは若き芸術家の卵の青年。芸術家の言葉はノーブルで隠微な戯れを暖炉のレンガのように積みあげて物語を形成していきます。そして彼に支配される美しい妻の想いは暖炉の内側でこそで燃え上がる。芸術家は妻を鎖で拘束さえします。拘束を受けた肉体はふいごのように妻の想いを熾らせ炎を導く。その熱は、芸術家が企てたとおり、芸術家の妻に魅せられ、彼に想いを捧げる自らの妻や母から離れて芸術家夫婦とすむことになった青年の心を焦がしていきます。でも火は暖炉の内側にあるから燃えているのです。青年が暖炉を壊した時から火は消えていくのです。火は自らの熱を取り戻そうとしながら芸術家の死とともに消える。それこそが芸術家に対する妻の想いの証明であり、芸術家が真に求めていたこと。あとには焼く尽くされた青年の心だけがたたずむ・・・。彼の妻の心も踏みにじられたままで・・・。

男優二人の演技はしっかりコントロールされていて、物語の構造が観客に明確に提示されていました。原田健二が演じる芸術家には芯に十分な重さと熱が感じられて好演、取り込まれていく青年を演じた峯尾晶からはやわらかくしなやかな心が感じられ、それゆえ妻から心が離れていくときのとまどいや物語の最後に心が灰になっていくような感覚がまっすぐに観客に伝わってきました。

女優陣もとても豊かな演技を見せました。ナカヤマミチコの演技には安定感があって、舞台を支え、青年の揺らぐ心を鮮明に見せる力となっていました。その短い言葉には母親の価値観が重く込められていて、同じ重さをもった芸術家の倒錯さえ感じられる価値観と見事な対比を作り出していました。井川千尋が演じるニュートラルな価値観と秘めた思いをしっかり抱く女性には、舞台上で過不足のない絶妙な存在感がありました。また、夏に違うチームでの彼女の演技を見たときにも感じたことですが、彼女には表面のすりガラスに映した心の動きの内側にまったく別の想いを垣間見せるような力があって、観客に彼を思う理性と裏腹な彼女の心情が浸潤するように伝わってきました。

安川結花についてはどのように表現すればよいのでしょうか。うまくいえないのですが、そう、すっと入ってきて観客の心を捉えてしまう。気がついたら観客は彼女の世界に運ばれているような感じ。なにかを演じるときの彼女には観客ごと自らの手のひらに収めてしまうような力があるのです。しかも、彼女の発する熱は舞台全体の温度を変えることなく観客にだけまっすぐに伝わってくる。だから、彼女の想いがどんなに強くても、物語が持つ冷たい肌触りが崩れないのです。演技には華奢な肢体からは想像もできないほどの力感があるのですが、一方で非常に細かく丁寧な表現がきちんと出来ていて観客を捕らえ揺さぶります。そのあたりは安川の才能に加えて松枝演出の勝利でもあるのでしょうね。

最後の演目ということで、終わってから帰り支度なのですが、見終わって少しの間動けませんでした。非常に豊かな余韻の残る芝居だったと思います。

まあ、5時間以上ですから、長いといえば長いのですが、ひとつずつの演目にそれぞれ惹かれる要素がきっちりあって、あっという間に時間が流れ、満たされた気持ちと空腹感を抱えて会場を跡にしたことでした。ちょっとお尻に痛みは残ったけれど、ほんと、よい日曜日を過ごさせていただきました。

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