柳家三三vs桂吉弥 ふたり会 師が走らずにみっちりと
12月25日のクリスマス、三三、吉弥両師匠の二人会へいってまいりました。会社から比較的近い内幸町ホールだったのでゆっくりめに会社をでて・・・・。ええもんを聴こうというときにあんまりせこせこあせって会場にいくのはよくありません。
しかしちりとてちんや芸術祭賞の威力ってすごいですね。会場は超満員でした。立ち見まで出ていたみたいで・・・。今まさに旬、人気の二人ですからねぇ。で、落語会の出来はというと・・・、それは見事なものでありました。人気を背負ってぐっと受け止める力がふたりにはありますね。
こういう勢いのある会は開口一番の出来からして違います。桂佐ん吉さんの出来からしてすばらしい・・・。
・開口一番 桂佐ん吉 「手水回し」
この話は上方が本場ということで、関西の田舎のほうが噺のテンポも会うような気がします。佐ん吉さんのペース配分というか噺のメリハリがすごくよいのですよ。、笑うところをきっちりと笑わせた感じ。長い頭の誇張もうまく、最後に洗面器いっぱいのお湯を飲むところもお客が不快にならないようさらっと納めて、後味のいい上がりでした。
・柳家三三 「道具屋」
いやあ、聴いた瞬間にどなたの一門かがわかる・・・。枕の話題の切り取り方も語り口も、小三治師匠のかおりがほんのりするような・・・。品を崩さず上品ぶらず、ところどころにちょっと盛られている毒が小三治師匠に比べてさらに今風でそれも好感触・・・・。
「道具屋」といえば定番の噺だし、前座さんもやられることがありますが、三三師匠の演じ方がとても丁寧なので、まるで別物の新しい噺を聴いているような気になりました。与太郎の気の抜け方と客の威勢のよさのかみ合わなさが抜群、また毛抜きでゆっくりと顔をあたる描写にもほれぼれ。微妙に時間を間延びさせて毛抜きをする男の世界へ観客をふんわりと取り込んでしまう・・・・。一方股引のくだりでは逆に秒針をすこしだけ早回しにして・・・・。間の取り方が観客の視点をうまく広げていく感じ・・・・。にじみ出てくるような与太郎の人柄になんともいえない可笑しさがあって、するっとながせば流れてしまう「道具屋」を出汁のよく聴いた味わい深い一品に変えてしまいました。時間の関係なのでしょうか雛人形の首で落ちを濁したのがちょっと残念だったけれど、噂の三三師匠、只者ではないことがよくわかりました。
・桂 吉弥 「天災」
実は前回この噺を聴いたのが小三治師匠のやつ。小三治師匠のバージョンと比べると吉弥師匠のほうが話の流れが早い印象。ただ、流れが早いから雑というわけではけっしてなくて、勢いがついている感じ。
さすがに心学の講釈の部分は小三治師匠の紅羅坊奈丸先生の方が懐が深いというか味があった気がしますが、それを夫婦喧嘩をしていた熊吉に無茶苦茶に聞かせるところはむしろ吉弥師匠のほうにグルーブ感が強かったように思います。雨の日に丁稚が水を撒いて、丁稚が屋根から振ってくるくだりなど、知っていても勢いに巻き込まれて笑ってしまう・・・。語る雰囲気に安定感があるから多少無茶に飛ばして勢いをつけても観客がちゃんとそれに乗っていける。小三治師匠の最後の無茶な説明のくだりは、観客の視点が二人の会話の外側に置かれた感じだったのですが、吉弥師匠の噺にはそのくだりで観客を当事者のいらちな心情に引き込んでしまうような。江戸落語と上方落語の根本的な差なのかもしれませんが・・・・。
さげまで一気に語る口調によどみがなく、上方落語のよい面がしっかりと出ていたように思いました。
・桂 吉弥 「蛸芝居」
トリの三三師匠の演目がどちらかといえばしっとりとした「薮入り」に決まっていたせいか、桂吉弥師匠は中入り明けの演目になんと「蛸芝居」を持ってきました。いやーー、うれしかったです。大好きな演目だし、望んでもなかなか見ることが出来る演目ではない。
華がありました。旦那の三番叟で噺の世界に観客を取り込むとあとはもう贅沢なほどにはめものの世界が続きます。ひとつずつのはめものがしっかりと安定していて、しかも演目間のトーンにブレがなく芸が積みあがっていく感じ。噺が進むほどに舞台となる商家の風景がいっそう鮮やかに浮かび上がっていきます。
噺の内容で聴かせるというよりは、噺が土台になってその上に芸で家を建てるような演目なのですが、吉弥棟梁の仕事は柱がしっかりと深くて屋根がしっかりと張っている。勢いに任せるのではなく、花道をあでやかに一歩一歩進むような小気味よさと貫禄が芸に同居していて・・・。裏方のお囃子もしっかり決まり、まさに眼福でした。
・柳家三三 「薮入り」
いや、そういう噺だっていうことは知っているのですよ。前日から待ちきれない父親の心情が聞かせどころのひとつだっていうこと。でもね、三三師匠の芸が噺に対する期待をさらに上回ってしまいました。心情がダイレクトに伝わってくる。小さな描写や感情の落差の度合いが絶妙。
感情の爆発をおかみさんがたしなめるじゃないですが。そのあとの父親の感情の収まり方がまたいいんですよ。ぐっと抑えるときに心情が地わっとにじみ出る感じ。お財布の15円からねずみの懸賞のくだりもよどみなくすっと噺がながれていくから、親子の清い部分がしっかりと立って子を疑う邪心に嫌味な感じが残らない。
子供が奉公先で芝居の真似事をしているというアドリブ(「蛸芝居」からのつながり」)もセンスがあり、理屈とかではなく場の雰囲気で物語を運ぶところもにも非凡さがあって・・・。さげもさらっと、江戸前で。
なんか、すごくいい気持ちで打ち出しの太鼓を聴けました。すがすがしい感じさえ・・・・。外の師走の喧騒なんてすっかり忘れてしまっていました。この木戸銭は安いと思います。
三三師匠については、できるだけ機会をみつけて、噺をもっと聞いてみたいですね。この人がどのように熟し、この先どんな噺がきけるかと考えるだけで楽しみがじわっと広がります。吉弥師匠も半年振りに聞きましたが前回より高座での度量がぐっと大きくなったようなきがします。こちらも追いかけて楽しさいっぱいという感じです。
帰りがけに吉弥ネットで線香・・・、じゃなくて先行予約した1月の吉弥さんの独演会チケットをピックアップ。なんせメインディッシュが「たちぎれ線香」だそうですから・・・・、そりゃたのしみです。年が明けてからこういうイベントがあると師走の忙しさもちょいとは忘れるというもの。個人的には本日御用収めなのに公私ともばたばたしていますが、なにか来年はちょいと良いことをねずみが運んできてくれるような気がします。
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