帯金の底力&帯金を生かす底力(北京蝶々 コントローラー)
11月18日のソワレで北京蝶々の「コントローラー」を観て来ました。寒い日でねぇ・・・。体の芯が凍えるような木枯らし一番が吹いて・・・。
大隈講堂裏のテントに入るまでの待ち時間が結構つらかったです。でも芝居を観てそんな苦労など吹き飛んでしまいました。作・演出・美術の大塩哲史おそるべしです。
(ここからネタバレします。公演中の作品でもありますので、この先の内容には十分ご留意ください)
舞台上には二つの空間が準備され、違う時間が流れていきますが、物語の構造自体はそれほど複雑なものではありません。パソコンをゲートウェイに現代の生活から過去が浮かび上がり、一方で過去から逆に現在が浮かび上がってくるという物語の構造。
その中で2組のカップルが現れ、未来を予測するためにコンピューターに入力する過去の姿としてカップルの女性の関係が浮かび上がってきます。
この芝居を観ていて感嘆したのは、パソコンをはさんだ裏表の世界で一人の人物を演じる二人の役者に強い一体感があること。時間を隔てて同じ性格を演じる違和感がまったく感じられないのです。だからといって窮屈な芝居をしているわけではない。それぞれの世界にしっかりと溶け込む演技でありながら根のつながりを強く感じる。松崎美由希の演じる学生時代のすがたがそのまましっかりと帯金ゆかりに引継がれ、白井妙尾が演じる女性の性格を鈴木麻美が受け継いでいる。森田祐吏と赤津光生の関係でも受け継ぎがしっかり出来ている。このラインが精緻に作られているから、観客は因果の糸が織り上げていく物語に身をゆだねることができる・・・。
まるでカードを一枚ずつ開いていくように過去の出来事が展開していって、それに合わせて現在の物語が動いていきます。そのカードの切り方がとてもソリッドで、なおかつどこかに企みがあって観客をひきつけていくのです。
過去の自分たちがもつそれぞれの闇が自分たちを支配していること、二人の登場人物の関係、それを取り巻く男性、満たされないものへの対応・・・・。
「コントローラー」というタイトルのニュアンスがまるで溶け出した染料のように物語からにじみでるころには、観客も舞台に操られ、登場人物の意識で物語の内側にある感情に浸りきって、二人の女性の交わりの先を渇望するようになっていく・・・・。
表面的にはどこか平坦とも思える芝居のトーンとは裏腹に瞠目するほど精緻なたくらみが内包された作品でした。均一な緊張感をもった舞台上で描かれる愛憎にはこの空間でなければ表現し得ないものが存在していました。
役者のこと、今回の帯金ゆかりはまさに持てる力を見せ付けたという印象です。強い言葉もそれほど多くない、派手な動きもない・・・。しかし彼女が背負っていくもの、次第に鉛色に変わっていくような心の動き、投げやりな気持ち、それを小さな動作やありふれた台詞の中でくっきりと観客の中に焼き付けていきます。パソコンを打つときの小さな肩の動き、同居人にお金を渡すときの財布をまさぐる仕草・・・、どうでもよかったという投げやりな言葉を話すときの表情、目線の位置、その声に含まれたかすかな苛立ち・・・。一つ一つの仕草が、丹念に編まれていくレースのように彼女自身を観客の心に築き上げていく・・・。不思議な透明感をもった歪みのない演技、観客はまるで脳髄に彼女の脳に直結するコードを繋がれたよう・・・。ダイレクトに彼女の心の色が伝わってくるのです。
しかも、帯金の演技だけを浮かび上がらせるのではなく、しっかりと物語の正しい位置に留め置くだけの技量が共演者たちにもあって、帯金の演技をさらにソリッドに研ぎあげられていました。鈴木麻美は堅実な演技のなかで、自らの欲望が現れるときの熱のようなものを見事に表現して見せました。ほんのちょっとグルーブ感がかかったような彼女の高揚、その力加減が絶妙で・・・。帯金の演技とぶつかることなく、逆にしっかり包み込むような・・・。彼女の演技の熟度を感じたことでした。
帯金や鈴木の学生時代を演じる女優陣の演技も非常によかったです。松崎美由希の演技には強い実存感がありました。しっかりと帯金とシンクロしてある種の精神的な怠惰さを鮮やかに演じて見せました。なおかつどこかに華があって追い詰められていく帯金とのあいだの落差を作ることができる・・・。帯金が次第に失っていったものが松崎の演技で見事に浮かびあがりました。白井妙美の演技は実直で、でも一方で鈴木が積み上げていくほの暗い感情の芽を観客に提示していくしたたかがありました。彼女は心を「垣間見させる」ような演技がとてもナチュラルにできる女優なのだと思います。その力は、鈴木が「自らが持つもつ他者支配の願望に対する無意識さ」のようなものを観客に提示する際に大きな支えとなっていました。
赤津光生の演技には持久力がありました。オーケストラでいうとコントラバスのように淡々と物語の底辺を固めていく芝居が、非常にステディにできていて・・・、その低く内側に強さのある演技が、物語の終盤、舞台上の熱への昇華していきました。赤津の学生時代を演じた森田祐吏にはあいまいな夢を内包した姿を安定して表現できる力があって赤津の演技にさらなる奥行きを与える力になっていたと思います。
田淵彰展、垣内勇輝、岡安慶子もしっかりと自分の仕事をしていたと思います。演技しっかりと芯があり、ぶれがないので、舞台全体が持つ均一な緊張感に溶け込み、芝居のフレームを支えるだけではなく、ここ一番の陰影作りに大きく貢献していたと思います。
しかし、今回の芝居、やっぱり帯金ゆかりが背負っていたのでしょうね・・・。松崎美由紀希のまっすぐなパス、鈴木麻美の重さのあるパス、さらには赤津光生の柔らかなパスをたくみに受けて自分の世界を広げていく・・・。想いをすっと入れる時の切れやはじけるような感情の表現力はこれまでの彼女の舞台で十分承知していたのですが、今回の彼女には舞台全体を染めるような観客に対する求心力がありました。舞台の重力を自由に調節できるような・・・。
12月に「コントローラー2P」という今回のスピンオフのような公演があるそうです。こちらもかなり楽しみです。
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