YEBISU亭の切れ味たるや・・・。吉坊、都んぼ、喬太郎
そもそもYEBISU亭自体が初めてだったのですが、今回は上方編ということでうきうきしながら出かけてきました。
普通の会とはちょっとちがう・・・。いきなりコント仕立てで始まります。まあ、割烹着来て小芝居をする喬太郎さんに昭和初期の芸人さん風を演じる都んぼ・吉坊のご両人、芸人としての器用さが問われるような場面ですが、そういう資質のある芸人こそが似合うような場の雰囲気もありました。
結局あの小芝居が開口一番の高座のかわりになっていて、吉坊さんの高座がすっと入ってきた。YEBISU寄席、のっけからちゃらんぽらんな企画に見えて案外ちゃんと仕組まれているのです。
吉坊さんの「七段目」,凛として見事なものでした。艶を感じるのに透明感があって、芝居の口調に張りがあってぶれがない。若さが良いほうにでていて仕草に切れがある・・・。観客を舞台に引っ張り込んでいく力がある。一番感心したのは、息子がいる二階と父親が居るある一階の空気を一瞬のうちに作り上げるその切れのよさと。見台・小拍子もなしに観客に息もつかせずこーんと場面を切り替えていく・・・。早さが、噺をよどませないというか噺の流れを切らさないのです。いれものの使い方も上手で、自分のリズムに引き込むような体のさばきに、ふっと芝居の舞台がうかびあがるようで・・・。、もう一発でファンになりました。
ただ、なんなのでしょうね・・・。あの会場の雰囲気は。もし、お江戸日本橋亭のようなアットホームな雰囲気での会だったら、ああ、よかったで終わってしまったのだとおもうのです。ガーデンプレイスの高座はふっと吉坊さんの今の力を浮き彫りにするようなところがあって・・・。会場が、噺を包むという感じではなく噺のあいまいな味を洗い落として、中身をさらして見せるのです。、
ちょっと表現が難しいのですが、吉坊さんって噺の枠の内側を丁寧に描いていく芸の力はもう十分に満ちていると思うのです。ただ、その一方で、枠の外側に踏み出す力を封印しているような感じも同時にみえてしまった。芸がさらに膨らんでいくなかで、ふっと浮かんだそんな鎖が自然に解けていくのか、彼自身が強い意志を持って枠をぶち破るように芸を広げていくのかはわかりませんが、単にええものを見ただけではないわくわく感のようなおまけまであって、ワンドリンクサービスでもらったお茶と吉坊さんだけですでに元はとってしまったような気分になりました。
つづいての高座は都んぼ師匠、安定したまくらで客を引き寄せます。自分の名前を元にした定番のくすぐりなのですが、積み重ねていくうちに笑いが観客の中からにじんでくるような感じ。高座を維持する力のようなものを感じます。
「変わり目」の旦那の酔っ払い方には故枝雀師匠っぽいデフォルメを感じるのですが、シュールになるほど品を崩しているわけではない・・・。どうしようもなさの中に、旦那としての人のよさがそこはかとなくでているのです。二代目故桂春蝶の「変わり目」のCDを持ってて、好きで時々聴くのですが、都んぼさんの「変わり目」のほうがなにか現実感があって・・・。春蝶師匠のやつは冒頭に数メートルだけ乗る人力車がタクシーに代わっていたりするのですが、そういう義理堅さがなくても、時代を超えたこの噺の味みたいなものを出せるのですね・・・。語りの太さのようなものが長年つれそった夫婦の絆をぐっと前に出し、その一方で一人がたりの朴訥さが夫婦の機微のようなものを浮かび上がらせる。妙な器用さがない分、伝わってくるものにあやうさがない・・・。塩梅がいいっていうのはこういう高座を言うのでしょうね・・・。堪能いたしました。どうせやったら、中入りなしでもいいから、半ばで切らんと最後まで聴きたかった・・・。まあ、今はこの噺を最後までする人ってあんまりいないのかもしれませんが・・・。
中入り後は主任の喬太郎師匠、その前にトークがあったこともあって、枕はあっさりと切り上げ、すっと噺に入ります。都んぼ師匠がねたで使った魚がついた字の入った湯のみを噺の中に差し入れたり、トークで出てきた水の飲み方と酒の飲み方の違いをくすぐりに入れてみたり、最初は場を緩ませながら話を進めます。お題が「おみね殺し」という牡丹灯篭の一部で男のわがままに女の悋気の話。男の浮気がばれるくだりからそれをとろとろと煮詰めていくのですが、その味わい深い淡白さに瞠目、喬太郎師匠の芸の深さが、染み入るように伝わってきます。
物語は中盤、おみねが家を出ると脅して旦那が開き直ったところで様相をガラッと変えるのですが、その一瞬の旦那の切れ方がまた芸の見せ所。息を呑むところではあるのですが、そこがマイクと地の声でかぶった・・・。I列3番というそれなりに後ろの席だったのですが、喬太郎師匠、まるでマイクが声を拾っているのを忘れたような発声で・・・、惜しい・・・。惜しいとはいうものの、震えがくるような切れがあって、まあ、このあたりは会場の微妙な広さの功罪なのでしょうけれど・・・。そんなこともすぐ忘れてしまうほど、本当にしっかりと客をつかんだよい高座でした。
あと、余談ですが「今夜踊ろう」(トークショー)もすごかったです。ゲストが新納慎也さん、「恐れを知らぬ川上音二郎」の稽古場から駆けつけたそうです。で、都んぼ・吉坊・喬太郎、この三人の芸談プラス芝居と落語の違いのようなお話が聞けると思ったのですが・・・。司会のまあくまさこさんが強烈な個性で・・・。なんというか人の話を聞いていないというか、全部自分の段取りに持っていこうとする・・・。上方芸人の前でそういうことをやったら、そりゃ芸人は突っ込みますよ。都んぼさんなんて立ち上がって突っ込み始めるし、おとなしく座っていた吉坊さんからも思わず声がでる。で、喬太郎師匠がやわらかくフォローしようとするのかと思いきや、喬太郎さんは上方に突っ込まれては江戸落語の名折れとばかりに意地になって細かいところまでぶちぶち鋭い突込みをいれる。結果として新納さんがおたおたすることになって・・。すごくシュールな雰囲気のトークとなりました。
しかし、まあくまさこさんはすごい。場が騒然となろうが堪えてないし気鋭の落語家三人を向こうにまわして負けてない・・・。そうなると落ちはすべてまあくさんに回って来るわけで・・・。落語家たちのうろたえように場内は大爆笑・・・。新納さんはもうあきれかえって「(私がゲストなのですけれど、おいしいはなしは)全部もっていきますね」とまあくさんにぼやいておりました。
こういうの毎回なのですかねぇ・・・。
さらに言えば最後にカーテンコールがある落語会もめずらしく、でも起承転結定まった感じで次回もぜひ行きたいと強くおもったことでした。
YEBISU亭 上方編 10月26日 19時30分 @ 恵比寿ガーデンプレイス
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