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The Hit Parade ミュージカルレビューとしてのパワー

しばらく前でしたがNHKBSでザ・ピーナッツの特番をみました。歳がばれますが、私にとってザ・ピーナッツはリアルタイムの世界で・・・。まあ、まだJazzなんてわからない子供でしたけれど彼女たちが「シャボン玉ホリデー」で歌ったりコントをやったりしていたのをよく覚えています。今にして思えば「スターダスト」という番組の一番最後に彼女たちが歌うナンバーは私が一番最初にメロディを覚えたスタンダードナンバーだったかもしれません。特番で見た彼女たちは私が小さなころ見た彼女たちのイメージを持ちながら一方で稀代のエンターティナーでもありました。映像を見ながら「ウナセラディ東京」の情感に浸って・・・。「恋のバカンス」の躍動感に心を躍らせて・・・。彼女たちのコーラスのクオリティ、寸分も狂わないハーモニーでありながらハーモニーに縛られることなく情感深く伸びやかに歌い上げるその姿に、何十年も前の映像でありながらそんなことどこかに飛んでしまって・・・。もしも願いがかなうなら彼女たちのコンサートを是非に見たいものだと思ったことでした。

さて、「ザ・ヒットパレード」です。渡辺プロダクションの創始者、渡辺晋・lミサ夫婦の半生を描いたミュージカル・・・サブタイトルに「ショーと私を愛した夫」とあります。実は予定がたたなくてあきらめていたのですが、ひょんなことから会社を定時退社できる日(27日)があって、当日券に並んでみることができました。

もし、この作品をミュージカルとして一元的に点数づけするとすれば・・・たぶん90点くらいでしょうか。物語の構成や脚本、ダンスのクオリティなどを見るとやっぱりブロードウェイミュージカルからは1ランク下がる感じで・・・。まあ、和製ミュージカルといわれる作品群の中では構成もきわめて良質なほうだと思うし、とくに振付などにはウィットを感じさせる部分も多くスピード感もあったのですが、まだ100点ではない・・・。入場料は10000円と来日した「プロデューサーズ」などとそんなに違わない・・・。もしこのミュージカルを渡辺夫婦の評伝ととらえるならば物語が希薄というか、線描で時代を描いた程度の内容だし・・・。時間的な制約があるにしても、もっと上手な表現をすれば、特に黎明期の渡辺プロダクションの物語はもっと膨らんだに違いない・・・。

しかし、このミュージカルを見終わって、駄作だとはまったく感じませんでした。それどころか私が見た国産ミュージカルとしてはまさに出色の出来・・・。物語が多少疎であっても、ダンスが多少ゆるくても、この作品には間違いなく観客を引っ張っていく力がある・・・。渡辺プロが創りだした音楽たちのレビューとしてみるならば、これは非常にクオリティの高い作品・・・。

(このあたりからネタバレ入ります。お気をつけくださいませ・・・)

とにかく音楽がキャッチーですごいのです。昭和30年代から40年代、さらには50年代くらいまでのヒット曲が次々と登場してくるのですが、その見せ方の見事なこと・・・。出演者たちも歌という点では、そのころの音楽を夢のように歌えるのです。主人公の原田泰造や升毅の歌はご愛嬌にしても、戸田恵子は歌でストーリーを構築していくことなどお手のものだし、北村岳子もここ一番のボーカルはしっかりと聞かせます。一幕最後のメドレー、ナベプロが世に送り出した曲たちはきらめくばかり、オンステージバンドにのって至福の時間が流れます。Rag Fairがステージのグルーブ感をしっかりと支えているのが大きい。オンステージのバンドにも切れがある。それらの100点仕事を土台に北村、戸田達がもう一段上の世界を積み上げていく・・・。ふたりとも安定感は抜群で観客が安心して身をゆだねられるのが、舞台全体の贅沢な心地よさにつながっていきます。

しかし、なんといってもすばらしいのが瀬戸カトリーヌと堀内敬子のザ・ピーナッツです。前半はどちらかというと全体の中の女声を支える部分が多いのですが、それでも彼女たちの声が観客を酔わせるような部分がいくつもある。2幕に入ってザ・ピーナッツとしてのスタイルでの歌が中心になるとその輝きは一気に増します。2幕の「ラバー・カムバック・トゥミー」のスキャットは99.9%乱れることなく重なり(ミキシングのせいかもしれないけれど1箇所だけほんの少しばらついて聞こえた)、観客は心地よさと高揚感に一気に浸される感じ・・・。

圧巻はそのあとの「ザ・ピーナッツメドレー」でしょう。たぶん当時ピーナッツが歌っていたのとまったく同じアレンジだったのでは・・・。小さなころテレビで観たときのザ・ピーナッツのハーモニー、「恋のフーガ」、「恋のバカンス」、モスラのテーマソングのあと「ウナセラディ東京」、テレビのなかで観たものの再現というよりは、テレビの中の世界がリアルに飛び出してきた感じ・・・。120%重なり乱れることのない独特のハーモニーやリズムに乗ったからだの動き、オンステージバンドとの一体感、観客を浮かび上がらせるようなリズムを超えたのり、なにより瀬戸・堀内の表情が、本来の役柄を超えて、歌うことの至福を目いっぱい楽しんでいるような輝きに溢れていて・・・。それがさらに観客の高揚を高めていきます。

いつまでも終わらないで欲しいという想いの中、「ウナセラディ東京」の歌詞のごとく舞台ではひとつの時代が美しく夕暮れの光を落とし、自分たちが幼いころブラウン管を通じてみていたものがリアルではこれほどまでにすごいものだったかと気づく・・・。一気に心に流れ込んできたものが、ゆっくりと観客自身の時間と同化していく。なにか本当に豊かで満たされた気持ちになりました。NHKBSで描かれたザ・ピーナッツの世界を眩いばかりに目の前に再現して見せた、彼女たちの「歌力」にはただ瞠目するばかりです。

あと、この舞台にはもうひとつすばらしいなと思えるところがありました。なんていうのだろう、このミュージカル、指の先までしっかりと演技がなされている感じがするのです。場ごとの緊張感がちゃんと舞台の隅々までつたわっているというか、その場に登場する役者たちの緊張感が舞台の一番すみであってもぴんと残っているというか・・・。そのため舞台全体が非常に締まった感じで見ていて実に気持ちがよかった。指の先まで神経が行き届いている舞台には不協和音がないというか、力強い一体感が感じられるのです。

さらには、それが渡辺プロダクションの伝統なのかはわかりませんが、舞台の役者だけではなく当日券販売への対応からホワイエ、ロビーのスタッフにいたるまできちっと指先まで神経のこもった仕事がされていました。エレベーターの対応から物販、開演時・開演中の観客の誘導にいたるまで・・・。こういうことはノウハウの集積であると同時に舞台を作る事に対してのスタッフの意識の問題でもあるのでしょうか、スタッフの行き届いた対応は観客にショーへの期待/余韻を大きく膨らませる力になるのだと感じました。

最初に書いたようにこの舞台をミュージカルとしてとらえるならば、もっとクオリティを上げうる余地があるし、評伝としてとらえるならば、ものたりない。でもこのミュージカルには100点満点で130点の部分が何箇所もある・・・。

考えてみればミュージカルというものは構成要素が全部及第点であってもおもしろくもなんともないものなのかもしれません。80点あればベースの部分で観客はそれなりに満たされる・・。観客を満足させるために必要なのはベースを100点にまで持っていくことではなく、たとえ1箇所でもいいから130点の見せ場を持つことなのかも・・・。そして、この作品にはそのような130点が何箇所もあったということなのだと思います。

帰り、人通りが若干少なくなった銀座通りを大満足で歩きました。心を浮き立たせる舞台というのは人の足取りを軽くするのです。仕事帰りで疲れていたけれど地下鉄の駅までが素敵な道のりになりました

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