NAMの発表会、目から再び鱗が・・・(少し改訂)
21日の夕方、私が注目している劇団、空間ゼリーさんがかかわっていらっしゃるワークショップの発表会を拝見してまいりました。前回拝見したものがあまりにも興味深かったので、歌舞伎(十二夜)の帰りに寄ってしまいました。場所は川崎ラゾーナの5F。
前回はリーディングなどもあったのですが、今回は3つのオリジナル戯曲を元にした発表会。但しそのうちのひとつは二人芝居なのですがひとりだけ役者を変えて2回演じられます。
正直いって役者さんのレベルにはかなりばらつきがあります。でも、それをあまり感じずに戯曲に没頭できたのは、3つの戯曲とも戯曲の屋台骨を支える力をもった役者さんがちゃんと配置されているから・・・。芝居というのは役者の個人的資質が問われると同時に役者間のバランスが問われる表現なのだということなのでしょうね。
一番おもしろかったのは、「時給800円シリーズVol2」。この戯曲の舞台になっているマンガ喫茶は前回の発表会にも登場しました。人間関係のバランスや登場人物それぞれの想いがしっかりと浮かび上がる脚本なのですが、たぶん一番難しいであろう新たにマンガ喫茶に面接を受けに来てかき乱すロールの役者さんにはしっかりとした人が配置されています。
最初、導入の部分の出来を見て、実はすこし不安な感じがしました。舞台空間全体に張りがないというか、役者さんが役をこなそうとしている雰囲気がなんとなくあって、芝居がざらついた感じがしたのです。しかし、乱し屋さんが入ってきてから雰囲気が一変します。その役者さんが舞台空間にはいった瞬間舞台が明らかに締まりました。表裏を持つ女性を演じるその役者さんには、舞台空間に色をつけるような力があって、空間全体がばらけずに均一な緊張感に包まれていきました。
結果として、その役者さんがはけたあとの芝居の出来も最初と見違えるよう・・・。古参の店員と店長代理、さらにはどじばかりしている店員が出てくるのですが、それらの会話や想いが、魔法でもかけられたようにきちんと、しかもスムーズに観客に伝わってくるのです。ちなみに、この戯曲には、防犯カメラで漫画喫茶の中を監視する女性刑事(?)役が設定されているのですが、彼女の設定がとてもよく出来ていて物語の幅を大きく広げていたように思います。刑事を演じた役者さんもしっかりと抑制された演技で物語にくびれとボリュームを作っていました。
「夏子と二つの眼鏡」は設定におもしろさがある戯曲です。2回演じられました。夏子さんと同棲しているつもりの2人の男が部屋であってしまうという、不条理とまではいかないにしてもちょっと不可思議な設定ですが、2回ともおなじ役を演じた役者さんにきちんとした勢いがあって、それぞれの相手役の役者さんがそれにうまく乗った感じの仕上がりでした。相手役の役者さんも特に演技に不安があるとかではないのですが、舞台の強弱をつくっているのは同じ役を演じた役者さんの方、そのコントロールが上手で、観客は戯曲自体の後ろにある夏子像というか彼女の価値観や姿のようなものをかなり明確に感じることができました。どちらかというと戯曲というよりは短い物語の断片のような印象もありますが、内包している2人の想いの落差もおもしろく描かれていて秀作だと思います。
「シャンパンレディー」も前回発表会にあったシリーズです。コンサルティング営業の教科書のような部分があってちょっと仕事を思い出してしまいましたが、戯曲のフレームはよく出来ていたと思います。また、店員の女性がスカートを売る手順が流れるようで・・・。この物語を支えていたのは彼女と客のナチュラルなやり取りだったと思います。ふっと引き込まれるような流れが舞台にあって魅せられました。
まあ、正直いうと物語の尺に対して登場人物がちょっと多すぎる感じは否めなくて・・・。それで物語全体が散漫になり緊張感のようなものが希薄になった感じがしました。特に店長のフィアンセの女性が販売に成功する部分っていうのは感動的なシーンなのですが、その場にいる人数の気配が多すぎるような・・・。みんなロールを持ってはいるのですが、空間にメリハリをつけるためには気配を消す演技というのも必要な気がしました。
合計で1時間ちょっとの時間ですが、終わってみれば時間が非常に短く感じられて・・・。今回も前回同様マジで楽しむことができました。発表会というだけでなく、観客を取り込んだ公演としても成立するクオリティをもっていた。エンターティメント的な成功要因としては演じられた戯曲ごとに見せるものがはっきりしていたのが大きいかもしれません。構造的にも良くできた作品だったし…。ちゃんと役者の演技から垣間見ることができるものが用意されている感じ・・・。さらに演じることにまだためらいがある役者がいても、上手な役者が空間を操って引っ張っていくところなども興味深くて・・・・。それらの環境がととのっている上に、観ていて演じる者の真摯さがすごく伝わってくるのですよ。それは演技の技術だけではなくその場で役者自身が与えられたロールとして溢れさせる意思のようなもの…。その意思が観客の重心をふっと舞台側に引き寄せるのです。
前回もそうでしたがワークショップに参加されている役者だけではなく、観客にとっても演じるということの本質を感じさせる力がこの催しにはあったような気がします。
今回もまた目から鱗が落ちるような部分もいくつかあり、帰り際、思わず、小額であってもどうしてもカンパを出したくなってしまうような魅力のある催しでございました。
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