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「主人公は僕だった」、洒脱な鎧の脱がせ方

ちょっとだけ運が向いてきたのか、試写会に当たって「主人公は僕だった」を観てきました。

場所は、新橋ヤクルトホール・・・。勤め先からはとても近いので楽だった。

一般の多目的ホールより、本当は椅子が良い映画館での試写会の方が好きなのですけれどね・・・、そんな身の程知らずな我侭をあっさりふきとばす素敵な映画でした。

上品なユーモアに満ちたというか、品のよさがあるというか・・・。観ていて心にやわらかい風がふくようなというか・・・。一度観た映画をもう一度みたいと思うことってあまりないのですけれどね・・・。特にコメディ系は・・・。でもこの映画は終わって、ロードショーになったらもう一度みたいなと思える要素をいくつも持っていました。

(ここからネタバレしますよ!ちゃんと言いましたよ!!)

一言でいうと、いろんなことに縛られないで自由な発想で出来た映画・・・。闊達なかに緻密さがあって、観客の心への浸透圧のようなものをちゃんと持っている。

ある日突然主人公のハロルド(ウィル フェレン)は、自らの行動と同時進行する女性の声を聞きます。知らないでハロルドにリンクしたストーリーを書いている女流作家の声なのですが、朗読するような声とハロルドとの妙なシンクロ感が小気味良くて・・・。

会計監査官になってから12年間つづいたハロルドの驚くほど変化のない生活が文学風に表現されていく冒頭でまず物語に引っ張り込まれます、毎回変わらない歯ブラシを動かす回数や、バス停までほとんど変わらない歩数や寝る時間の正確さまで語られて・・・。さらに声で表現できないニュアンスもちょこっと今っぽいGUIをCGで出したり・・・。ハロルドのつまらない人間ぶりをうふっとなるほど面白く表現する工夫がたくさん・・・。見ていて飽きないのです。

当初は作家の声に混乱するだけのハロルドですが、その声が主人公の死を告げたことから、彼の人生は大きく変わっていきます。今までの決まりだらけの生活から次第に逸脱していく。惹きたかったエレキギターを買ったり・・・。しかもお店に並んでいるギターたちが彼に語りかけてくるところにもなんともいえない味があって・・・。恋も始まり・・・。

その主人公が惹かれるベーカリーショップの主人、アナ(マギー ギレンホール)もすごく魅力的。心優しさが素直に出てしかもそれがいやみにならないタイプ。彼女はつまらないハロルドに対しても偏見を持たない・・・。最初の出会いは国会計監査官としての主人公とベーカリーショップの経営者としてですから、本来相性が合うはずがない・・・。しかしハロルドは彼女に惹かれ、彼女もハロルドを本当に拒絶をしない・・・。おおざっぱな性格だけど頭の回転もはやく何かに偏見をもたない、腕にタトゥーをした一応ハーバード大学中退の才女。良い意味で中途半端なキャラクターがハロルドが自ら12年間まとっていた鎧をはずすのを助けます。

鎧をはずした本当のハロルドは普通の優しさにあふれたちょっと不器用な人間。中途半端なユーモアセンスを持った、でも誠実さを忘れない彼の姿が次第に浮かび上がってきます。花(Flower)の代わりにさまざまな粉(flour)を入れた箱を彼女にプレゼントするハロルド・・・、とてもよいシーンです。飛びぬけたユーモアではないのですが、はまり方がすごく気持ちいい・・・。

一方、もうひとり、しっかりと鎧を身に着けた人間がこの映画には出てきます。悲劇の小説家、ハロルドの運命をタイプライターに乗せてしまったカレン・アイフル(エマ トンプソン)です。彼女も、悲劇の小説を書くために鎧をまとっている。

彼女が主人公を殺す手段を考えるところがめちゃくちゃ面白い。一番笑うのは死にそうな人を見に病院へ行くところ・・・。ほとんど上方落語の世界です。

「死にかけている人ってどこにおりますか?」

「そんな人ごろごろおりますかいな・・・」

「え、おれへんの・・・、ほな、別の病院さがさなあかん」

「な、なんでやねん」見たいな世界ではありますが。。。

な別の病院あたみたいな世界・・・。カレンのちょっと妖に憑かれたような雰囲気がさらに笑いを誘います。彼女が鎧を脱ぐのは一番最後・・・。悲劇の完成度を少し下げて、それに納得する彼女の姿にふっと温かい彼女のぬくもりを感じる・・・。あ、彼女も着ていた鎧を脱いだのだと、観ている方もほっとするのです。

彼女のキャラクターは劇団あひるなんちゃらの黒岩三佳さんに通じるものがあるような。どこかずれたシリアスさと人間味を感じます。

ハロルドとカレンの不可思議な関係に、それぞれの立場を逸脱しないように番をしているのがヒルバート教授(ダスティン ホフマン)と出版社に雇われたカレンのお目付け役ペニー(クィーン ラティファ)。ハロルドやカレンの立場が明確になるためのよいスパイス・・・。ヒルバート教授役のダスティン・ホフマンの演技には本当に惚れ惚れします。重厚さを持ちながら映画から浮かない良質な軽さをちゃんと持ち合わせている。パヒュームのときにもすごいと思ったけれど、今回の方が彼の魅力はよく出ているかも・・・。

すごくバランスのとれた映画だと思うのですよ。このバランスだからこそ生まれる粋がある・・・。NYなどにくらべてねっとりしていないシカゴの雰囲気ともぴったりのトーンで・・・。5年とか10年の単位で脱げなかった鎧を少しもがきながらはずしたあとのハロルドとカレンそれぞれにやわらかく拍手を贈りたくなるような・・・

こういう映画って、一生心のどこかに心地よい記憶を持っていられるのだろうなって思います。

なにかのはずみで時間が空いたときに、おしゃれな、あまり大きめではない映画館でみるのがよいかも・・・。

おすすめですよ。クッキーをミルクに浸してたべたくなること請け合いです。

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