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「ドラマ進化論」(北京蝶々)のしなやかなはばたき

北京蝶々って一度観に行きたかったのですよ。双数姉妹で劇団員帯金かおりさんの怪演をみているし、双数姉妹や第三舞台の後輩劇団として現役の早稲田大学演劇研究会がどんな芝居をするか見たいというのもありました。

結論、べたな言い方ですがとても面白かったです。

結構リスクのあるテーマだとおもうのですよ。ひとつ間違うときわめて表層的で陳腐な話になってしまうし、視点を変えれば市民団体敵に回してしまうかもしれないし・・・。

でも作る側は、それらのリスクを十分に見切っていたのでしょうね。自らの創作物のなかに真理が含まれているという確信があったのではないでしょうか。真理が見えていたから、近年の情報流通手段等の変化によって起こる事象を、尖った世界でなくオーソドックスな素材で作ってみせるゆとりがあったのだと思います。しかも十分に咀嚼して提示する力量を劇団として持ち合わせていた。

そもそもネットによる意思醸成に関して、TVドラマという既存の世界を素材にしたところにも、この劇団のセンスのよさを感じます。独りよがりに難しい素材を使うことをせずに、わかりやすい媒体で観客を自らの懐に呼び寄せます。センスのよさは、劇中でのドラマに関するデータ提示のシーンにもよく現れていました。アンケート結果の提示方法(グラフ)や作りかけのドラマの提示の仕方、それだけで上演時間を節約しただけでなく、物語のコアの部分で観客に必要となる前提を効率的に観客に提示することに成功していました。この提示があったから物語が本当に提示したい部分がまっすぐに観客に伝わってきたのだと思います。

音の使い方もうまかったですね。前提を提示した後は、音を芝居に大きくからめて観客を追い込んでいきます。それまでわかりやすい情報を提示して観客を舞台に引き込んでいたのに、ある段階から与えた情報をロジックにして観客をある種の緊迫感に追い込んでいくように舞台のトーンが変わります。

とてもしなやかな舞台、しかも見終わったあとに1時間芝居とは思えないほど強い充足感がありました。

最後の暗転だけ少し気にはなったのですが、まあ、それは舞台側の事情なのかもしれません。暗転の長さに意図があるとすれば、もうちょっと工夫があっても良い気がしました。そうでないと最後に提示ものがもったいないような・・・。

役者では帯金ゆかりさんにやはり華がありましたが、白井妙美さんのしっかりと入り込むような演技にも大きな力を感じました。赤津光生さんも自分のペースをしっかりと守って舞台をうまくコントロールしていたように思います。

鈴木麻美さんの落ち着いた演技にも魅力を感じました。舞台の状況に絡みながらも流されずに自分のペースを守り、狂気に舞台上の正気が流されないようにアンカー(碇)の役割をしっかりと果たしていました。

松崎美由希さんをはじめ、他の役者さんたちも発声を含めて訓練されていて、なおかつ切れがいいんですよね・・・・

切れがよいといえば、客を並ばせるところから荷物の預かり、客入れ、座席の案内などの一連の作業を行っていた方々も本当にしっかりと訓練されていて気持ちがよかったです。観客を気持ちよく芝居に没頭させる心遣いを感じることができました。

ところでこの「ドラマ進化論」というこのお芝居、今回見たのはβ版ということで、このあと観客のアンケートを反映させてキャストなどを変更し本編を上演するそうです。戯曲の内容と妙に重なり合ったこの企画、思わず私もアンケートを熱心に書いてしまいました。そういう芝居の外側の工夫にも奇をてらわない洗練された発想のしなやかさを感じたことでした。

本編は5月23日~29日までとのこと・・・。お勧めです。

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