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上野樹里のブラインド(虹の女神他)

「虹の女神」という映画をみてきました、
岩井俊二プロデュース作品、
熊谷尚文監督は「リリーシュシュ」の手法に近い形で
時間を切り取っていきます。

いい映画ですよ・・・
心が涙を呼ぶ前に、涙がすっと溢れていましたから・・・
そんなに複雑な伏線を張っているわけでもなく
そんなに話を膨らませているわけでもなく・・・
でも、それが、この映画のトーンをしっかりと守っている

上野樹里の演技が本当に秀逸で・・・
スウィングガールの演技から観てもとても進化していて・・
「のだめカンタービレ」の演技を見ていても思うのですが
彼女自身が演技として作れる表情のパターンって
今でもきっとそんなに多くないし
フレキシブルではないのですよ
同じ出演者では蒼井優のように
無段階に感情が色を変えていくわけでもなく
佐々木蔵之介のように
カメレオンよろしく感情を動かせるわけでもない
ギアを入れるたびに
パターン間の中間のポジションが
ひとつまたひとつ生まれているという感じ
ただ、彼女が優れているのは
その表情に物語を絡め取る力で
矛盾するようですが
表情が不器用でありながらごまかしがない分、
物語の中での彼女の意図が
観るものにとってストレートでわかりやすかったりするのです
さらに最近では台詞と表情のアンマッチというような裏技もどきも現れて、
驚くなかれそれが表現としては最盛期の野茂のフォークより有効で
不自然でなくしかもしっかりと観るものに伝わるし
台詞と表情が一致したときには
伝わる思いが普通の女優さんの演技より
さらに強いし・・・

ちょっと表現を変えると
「Swing Girl」の時に本仮屋ユイカと彼女の演技を観ていて
元仮屋表現が心から常に漏れ出てくるカーテン越しの光なのに対して
上野表現は風通しのよい部屋をのぞくような感じで
そこに同じ制服を着た女子高生の
多様性を感じておもしろかったのですが
(ましてその多様性のなかで極上のジャズメロディが生まれていくことに
わくわくしてしまった)
今回の上野はその風通しのよい部屋の大きな窓に
ブラインドが下げられて
彼女の演技に付随した開閉のなかで「あおい」が表現されていくような感じ・・・。
心の中の表現手段はシーンごとに大きく変わらないのに
ブラインドが共演者の発する光との影を調節しているような・・・。
しかも彼女の大きな窓はそこに映る共演者達を
曇らせることがない
蒼井優の芯から発する感情で観客をとりこむような演技は
上野独特の表現に対しても存在感を失わず
それどころか蒼井の存在感まで強めているし・・・
市原隼人のような、どこか観客の気持ちと親水性があるような
演技に対しても流されることなく、彼女の風景はそこにあり
逆に双方のしっかりとした存在感を際立たせている・・・

そしてブラインドが最後に全てあげられたとき
彼女の風景には光が隅々まで当たり風が吹き込んで・・・
自らの心に強いられることのない、観客に降りてきたような涙が溢れる・・・

物語もそれほど複雑でもなく
無理もなくシンプルで
でも伏線がしっかりと効いていて
淡々とした時間を切り取っているのに
退屈な時間なんてひとつもない映画
内容的にはものすごくタフなのに
見た後に
そのナチュラルさが心に浸潤して
多分一生忘れられなくなるような
肌触りを持った映画

結局上野や市原、さらには共演者達が描く
不可思議な世界に取り込まれているだけなのかもしれませんが・・・
観客を取り込んでくれる作品こそ
やがて名画とよばれていくのでしょうから・・・

ま、ということで
「虹の女神」
よいものを観たと思うし
また観たいとも思うし
お勧めの映画でもあります

ところで余談というか蛇の足ですが
映画館からの帰り道、ゆっくりと歩きながら
彼女にイプセン「人形の家」のノラ役をやらせたら
面白いのではとふと思ってしまった・・・
どっかの演出家が
彼女をたぶらかして舞台に上げて
ノラさんをやらせませんかねぇ・・・


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