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トリビュート(井上陽水)

井上陽水のヒットナンバーに
「夢の中へ」があります。
コード展開が比較的易しくて
そうはいってもギターコードの最初の難関である
Fが練習できることから
大学で音楽系のサークルに入った私は
最初に練習した記憶があるのですが・・・
この歌、不思議なことに演奏する人によって
いろんなニュアンスに聞こえるのです

「夢のなかへいってみたいかと思いませんか}と歌うとき
誘うようにも、夢に遊ぶ自分への言い訳のようにも
自分をもっと解放するようにとの励ましにも聞こえるこの歌
その不思議に演奏の感想をサークルのなかでお互いに
話し合ったりすらしたものでした

Yosui Tributeというアルバムには「夢の中へ」を含めて
全部で14曲の陽水作品が収められています
演じるミュージシャンも14人・・・・

陽水の歌は演じる人を決して染めません
陽水の歌が演じる人に染まるのです
もちろん、ミュージシャンが一番自分に合う歌を選んだという
側面もあるのだと思います
でも、それ以上に、歌の中にミュージシャンが
あつらえた服を見につけるように収まってしまうのがすごい
奏でる歌は陽水が歌ったものと同じでも
歌が作り出す世界はもはや陽水のものではなく
歌う者をそのまま映しているのです

平原綾香の「心もよう」や一青窈の「ジェラシー」は
陽水の世界よりはるかに想いが強く
持田香織の「いつのまにか少女は」は陽水の世界より
ずっと飾りがなくピュアで
布袋寅泰の「東へ西へ」は陽水の世界よりずっとパワーがある
小野リサの「いっそセレナーデ」は陽水の世界より
ずっと軽くしかもよりけだるいし
奥田民生の「リバーサイドホテル」や忌野清志郎の「少年時代」は
井上陽水の世界から一枚ベールを剥ぎ取ったような錯覚をうけるほど
生き生きと闊達に聞こえる

極めつけはユーミン(松任谷由実)の「とまどうペリカン」で
彼女の歌声に織り込まれたスピリットは
ニューミュージックなどといわれる音作りで覆われていても
コアの部分は美空ひばりにも匹敵するほど
上質な演歌であるとはっきりわかりました

もしかしたら陽水の曲は美しい飾りガラスで作られた
正方形の箱のようなものなのかもしれません
たとえ井上陽水の世界を陽水らしく表現しようとしても
ミュージシャンの本質の方がガラスを通して
きらめいてしまう
演じるものはマジックミラー仕立ての部屋のなかで
自らが一番芯に持つものをさらけ出してしまう

井上陽水の歌がトリビュートされるとき
人はガラス箱を外から眺め
内側で表現されるさまざまなものに
自らを投影して感情移入を果たすということなのだろうと
思います

ただ、井上陽水自身が彼の歌を歌うとき
観客がとこにいるかというと
多分ガラス箱のなか・・・
そこがまた不可思議なところで
他のミュージシャンの歌が多くの人に訴えかけていくのに対し
井上陽水の歌声には
コア側にすべてを引っ張り込むような強さを感じます
なんというか、彼の歌声が聞き手に与える視点はガラスの中から
外を眺めているような印象を聞き手にもたらすのです

芝居などでも、自分が第三者として感情移入をする役者と
自分を取り込んでくれるような役者がいるじゃないですか
それと同じことなのかもしれません

いずれにしても
聴きなれた陽水の曲にもかかわらず
ちょっとした驚きをもって
このアルバムを聴いたことでした
「夢の中へ」の不思議がよみがえって
通して14曲を聴いたあと
もう一度、ひとつひとつの曲を
歌詞を追いながら聴きたくなりました

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