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風は積み重ねても軽いーアフターダークの感想ですー

芝居の話からはすこし離れるのですが
村上春樹の「アフターダーク」、
一気に読んでしまいました

昔、「風の歌を聴け」を読んだときの
読感(こんな言葉はないけれど)が久しぶりに
戻ってきた気がしました

うまくいえないのだけれど
軽くソリッドな感じの窓ガラスに差し込む薄曇の光で
自分の中のすこし汚れた空き部屋の壁にピンでとめられた
ずっとむかしのありふれたスナップ写真が照らされた感じというか・・

軽い・・・ちょっと違うかもしれません
間違っているわけではないのですがどこか自分の感じたものを
正確に表現しているわけではない気がします
軽いというより、重さが減じられたというか
本来ある重みが現実と喪失感に分けられたというか・・・

「風の歌を聴け」を読んだときに感じた一種の喪失感のようなもの、
階段のように規則正しい時間がふわっと盛り上がったような感じ
まだ、若かった頃、もっと幼かった頃
記憶?記憶!・・・きおく・・
夜行バスのイメージ
10代から20代に入る頃のセックス・・・
社会というもの、リアルさ
遊び、粋?、すこし置かれた距離・・・
発見する前のまだ見えていないもの
そして見た後埋もれてしまったもの・・・
世の中、大人、けだるさ、芯にあるとめられないもの・・・
缶ビールが消費されていくたびに流れる時間
当時あの感覚を表現した小説なんてなかった気がします

もちろんあれからふた昔以上たって
村上氏の物語もさまざまにふくらみ、
私も彼の作るいろんな世界を読み続けて
よいおじさんの歳になりました

多分村上氏の一番根本にある喪失感は
どの作品にも共通してあるものなのだろうけれど
村上氏が喪失感をてらすライトの色はいくつにも変わって・・・
でも、きっと村上氏は最初のすこしくすんだ色を
忘れることはなかったのだと思います

当時、初めてその色を見た私も
やがて、さまざまな表現に出会うことができて・・・
小説だけではなく、歌も演劇も時代も・・・
自分のいろんな経験に彩られたもの
未知なものの疑似体験・・・
自分でも贅沢しているな思うほど良いものも見ることができたし
いろんなことを知ることができて・・・

でも、「アフターダーク」を読んでいる間、そして読み終えたあと、
「風の歌を聴け」を読んでから今までに
自分の中で無意識に積み重ねていったコンテンツが
風のようにただそこに吹くだけの存在にすら思えてしまいました
そして、優しい喪失感に身を任せるとき
自分のなかに欠けたピースをみつけたような気がします

欠けたピースを見つけた?
違う・・・、そこに埋められるべきものに気づいただけなのかもしれません
それは何?
それが何かを表現するのはかなり難しい
ただ、匂いがあって、存在を感じられて、
すこし懐かしくて切ないもの・・・
でも、透き通ってなぜか凍りつくもの・・・

演劇からなら、もっと包括的に感じることができるような感覚だと思います
文字の方がずっとフィックスしていて、何度も確認できるのに
文学というのは時として受け手にはタフな表現なのかもしれません

風はどんなに積み重ねても風の重さ
触れるときその感覚を忘れることはないのに・・・
透きとおってただ、ひたすら、軽いのです

読み終えたあと
ちょっと、息をふっとついて、ベランダで深呼吸をして・・・
自分の前の景色をながめて
自分が村上春樹を最初に読んだときのテイストを
まるで今を見るように思い出したことでした

R-Club


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